導かれなかった者たち




※シナリオ形式
※DQH2の内容を少々含みます
※一部男性キャラへのあたりが強い
※キャラ崩壊、破天荒
※以上お許しくださる方のみどうぞ、お楽しみくださいませ。





























 ここはリッカの宿屋、ゲストルーム。豪勢な食事を乗せた円卓を、四人の男女が集まって囲んでいる。

ソロ「えー。それではこれよりぃ、第一回導かれなかった者たちの会を開催しまーす」
ソフィア「いえーいかんぱーい。ドンドンパフパフー」

 四人、間の抜けた音頭に流され、杯をぶつけて干す。

ライアン「あ、あの。勇者殿?」
ソロ「おっとライアン。ここじゃあ勇者なんて呼んだら、腐った死体並みに勇者が湧いて出て来ちまうぜ?」
ソフィア「現にあたしも勇者だしね!」
ライアン「で、ではソロ殿。これはいったい、何の会合で……?」
ソフィア「やっだなーライアンったら! ソロがさっき言ったじゃない!」
ソロ「第一回導かれなかった者たちの会」
ブライ「ちっとも意味が分からんわい」
ライアン「それはいったい、どのような趣旨のものなのです?」
ソロ「決まってんだろ。今話題の双子の世界に招かれなかった奴らが集まって飲み食いするだけの飲み会だよ」
ライアン「今話題の双子の世界とは、何なのです?」
ソロ「まあ、平たく言うとあれだわ。七つの国が戦争を起こして滅びかねねえことになってる大変な異世界」
ソフィア「そこで今、私たち以外の導かれし者たちが呼び寄せられて戦ってるじゃない? だから――」

 そこへ、ドアを開けて二人の少年少女がシルバートレイを手に現れる。

ナイン「【ドラゴソク工ストヒ―口―ズⅡに出られなかった皆様】を慰めようと、ソロさんが主催したのです」
ノイン「お飲み物です。どうぞ」
ソロ「おい、なんか今すげえこと言っただろ」
ナイン「僕は今普通に説明しようとしただけです。それが何故か、【三次元語】に変換されてしまったようで」
ソフィア「【三次元語】?」
ナイン「だから、【ドラゴソク工ストヒ―口―ズⅡ】──あ、ほら、また勝手に」
ソロ「なるほど、【こちら】の事情を説明しようとすると、勝手に【読み手側】に分かりやすいようなフレーズに変換されちまう──それが、【三次元語】ってヤツか」
ソフィア「そのフレーズが何を意味するのか分からないけど、それを聞いた者はなんだか分かったような気がしてしまう……【三次元語】、恐ろしい言葉……」
ブライ「もう休んでもいいかの?」

 ブライ、立ち上がり自室に戻ろうとする。
 その肩をソロが掴む。

ソロ「待てよジイさんはえーよ! まだほとんど飲み食いしてねーじゃねえか!」
ブライ「やかましいわ! ぬしら、最初からわしらを慰める気なんぞないじゃろう。そんなアホみたいな装備をしおってからに」

 ブライ、ソロの服をじとりと睨む。
 ソロ、自分の身体にかけた「導かないでください」というタスキを見下ろす。

ソロ「そっ、そんなことねえぜ」
ブライ「ぬかせ」
ソフィア「本当だってば! あたしの服装を見てよ! これのどこがふざけてるの!?」

 ソフィア、自分のタスキを引っ張って見せる。
 タスキには「ブッコロリー」と書かれている。

ブライ「ふざけているようにしか見えんわ!」
ライアン「まあまあ、お待ちくださいブライ殿」

 ライアン、憤慨して席を立とうとするブライをなだめる。

ライアン「彼らは我々を馬鹿にしているわけではないと思いますぞ」
ナイン「そうですよ、ブライさん」
ノイン「この二人は、本当のところ自分達が導かれなかったのが嬉しいんです」
ナイン「僕たち止まり木に集まるメンバーのうち、誰よりも宿命が嫌いな二人ですから」
ノイン「でもブライさんとライアンさんの二人だけが置いて行かれて、何だか寂しそうだからって」
ナイン「だから僕たちに、このリッカの宿屋セントシュタイン本店に招いてくれって頼んできたんですよ」
ノイン「ですので、導かれなかったことを慰める気はあまりありませんが」
ナイン「一緒に楽しくやろうという気持ちは強いようですよ?」
ソロ「……なにお前ら、相変わらずエスパーなの?」

 ソロ、かわるがわる話した二人をまじまじと見つめる。
 ナインとノインはそろって首を傾げている。

ナイン「ソロさんたちがお二人で事前に話していたことをまとめたまでです」
ソフィア「いやそうじゃなくて、その喋り方の話なんだけど」
ソロ「いつ聞いても感動するほど息ぴったりなのな」
エイト「とにかくそういうわけで、失礼な二人ですけど代わりに僕たちがちゃんとおもてなししますから。今日はめいっぱい楽しんでください」
ライアン「かたじけない。そのご厚意に甘えさせていただこう」
ブライ「ふん。少しは老人の敬い方を知っている者もおるようじゃな」
ソロ「つかエイト、お前いつからいたんだよ」

 ソロら、円卓にいつの間にか加わっていた青年を見る。
 青年ことエイト、手にした白ワイングラスをあおってにこりと微笑む。

エイト「そんなことどうだっていいよね? 俺も【ドラク工Ⅷ】のうち唯一呼ばれてない初期パーティーメンバーなんだから、仲間にいれてよ」
ライアン「む。貴殿もか?」
エイト「そうなんです。前回の【ヒ―口―ズⅠ】の時はもう一人いたんですけど、そいつも今回行ってしまって」
ソロ「あれ。ボインのねーちゃんだけじゃなくて、あのブラコン野郎も行っちまったのか」
ソフィア「何だっけ、ククールさん?」
エイト「そうそう」

 エイト、今度は赤ワイングラスを手にし、件の人物が纏う色に似た液体をそこへ注いで無造作に揺らす。

エイト「まあでも、彼の顔面は【三次元化】にうってつけだからね。せいぜい本領発揮してもらって、【ドラク工Ⅷ】の知名度を上げてもらわないと」
ソロ「お前、アイツ限定で当たり強ぇよな」
ソフィア「でも気持ち分かるよー。銀髪のイケメンって、なんかボコボコにしたくなるよね」
ソロ「あー分かるー超分かるわー」
エイト「言っとくけど、君たちの方がよっぽど当たり強いからね?」
ライアン(銀髪のイケメン……)
ブライ(彼奴のことか)

 ライアンとブライ、心当たりのある人物を思い浮かべて頷く。
 ソフィア、ビールジョッキを卓に叩きつける。

ソフィア「つーか納得できないんだけど! なんであの銀髪ロン毛野郎が『出演』できて、ライアンとブライができないワケ!? 理不尽よ!!」
ブライ「ふん。理由など自明じゃろう。老いぼれは必要ないというそれだけじゃ」
ソロ「おいおい、拗ねんなよジイさん」
ブライ「拗ねとらんわ! 姫様に手を焼かされることもなく、クリフトに全部丸投げできて清々したわい!」
ナイン「じゃあなんでそんなに怒っ──むぐ」
エイト「(ナインの口を手で塞ぎながら小声で)駄目だよナイン。今度こそ本当に拗ねちゃうから」
ノイン「私、知ってます。ブライさんは今お二人をしんぱ──むぐ」
エイト「(空いた方の手でノインの口を塞ぎながら小声で)駄目だってばノイン。人間にはプライドってものがあるの!」

 二人の天使はエイトの掌の下で、むぐむぐと口を動かしている。
 ゲストルームの扉が開け放たれる。青い髪の青年と、純朴そうな少年が入ってくる。

レック「よっ、いい感じに盛り上がってるな!」
ソロ「あ? 呼んでねえんだけど」
レック「まーまー、水臭ぇこと言うなよー。俺たちだって導かれてないんだから混ぜてくれよ! な、アルス!」

 純朴少年ことアルスはにこにこしている。
 新入り二人が席に着く。ソフィアは構わず吠えている。

ソフィア「何よ、顔が何だっていうのよ!? あたしはピチピチより燻し銀派なの! あんなピチピチボーイズじゃあ満足できないってば!!」
エイト「そこなの?」
ソフィア「だいたい全員『イケメンだけど〜』系じゃん! 何で残念系オンリーなの? もっと他にバリエーション豊かなイケメンがいたでしょ!? イケイケ俺様系、真面目委員長系、後輩ワンコ系とかそろえてよ!」
ナイン「【乙女ゲーム】みたいですね」
エイト「みたいっていうか、そのラインナップはまんまそれだよね? あの、【ヒ─口─ズ】の【コンセプト】分かってる?」
ライアン「ソフィア殿」

 聞きかねたライアンが、苦笑して口を開く。

ライアン「自分たちのために憤ってくれるお気持ちはありがたいが、言い過ぎですぞ」
エイト「そうだよ。ククールはともかく、他のみんなは──」
ソロ「そうだぜソフィア、思い出してみろよ」

 ソロ、真摯に説く。

ソロ「今まで【ドラク工】に、難のないイケメンなんていたことあったか?」

(ああーっ! スゴイ説得力だぁーっ!)

 コイツの性格、【公式】じゃないけど。
 一同、口に出さないまでも彼の端正極まりない眉目秀麗さを眺めて納得してしまう。ソフィアもはっと我に返る。

ソフィア「そっか。言われてみればそうだね」
ソロ「そうだろ? よく考えてみろよ。欠けたところのねえ純真なイケメンが仲間にいたとしたら?」
ソフィア「…………」
ソロ「しかもそいつが『僕は魔物に恨みなんてないけど、魔物は悪いものだから一緒に戦うよ!』って言って仲間に加わってきたら、どうよ?」
ソフィア「うん。村を焼かれてから出直して来いって言う」
エイト「二人とも、ブラックすぎてジョークになってないからね? 聞いてる?」

 エイトがたしなめるも、二人は聞いていない。感慨深げな顔つきでかぶりを振っている。

ソフィア「そっか……ごめんなさい。あたし、間違ってた。【公式】でイケメンって呼ばれてる人たちは難があるからこそいい味が出てて、だからこそ多くの人に望まれて呼ばれていったんだね……ピサぴっぴ以外」
ソロ「そうだ。あいつらだって苦労してるんだ。いい奴らばっかりなんだぞ。ピサぴっぴ以外」
ソフィア「ごめん、本当にごめんね。ライアンとブライに出て欲しかった気持ちがあったとしても、言っていいことと悪いことがあるよね。あたし、あの人たちのことを嫌いなわけじゃないのに、考えなしになんて酷いことを……」
ソロ「ソフィア、大事なのはこれからだ。これからお前がちゃんと、【ヒ─口─ズ2】に出てる野郎どもを笑顔で応援できる──それが一番の償いになるはずだ」
ソフィア「うん、そうする。あたし、クリフトもテリー君もククールさんもみんな可愛いなって思ってるもん。応援する」
ソロ「そうしてくれ。本当にあいつらいい奴らなんだよ」
ソフィア「ピサぴっぴ以外」
ソロ「ピサぴっぴ以外」
レック「なあ、そのくらいでいいか?」

 しみじみとした雰囲気になった二人に、レックが呆れた声を上げる。

レック「お前らひねくれすぎなんだよ。少しはアルスを見習ったらどうなんだ? カノジョと友達に置いてかれたっていうのに、文句一つ言わねえぞ? なあ、アルス?」

 レック、隣に振る。アルス、微笑んで言う。

アルス「僕のマリベルがあんなにも可愛い」
ソフィア「待って。明らかに様子がおかしい」
ソロ「めっずらし。アルスが堂々と惚気てるな」

 皆、しげしげと観察する。アルスはただ真正面を向いたまま、満面の笑みで言う。

アルス「マリベルは可愛いんだよ」
レック「【ヒーローズ2】が【リリース】されてからずっとこうなんだ。目も合わせてくれねえんだけど、どうしたらいいと思う?」
ソフィア「あんた、さてはそれが本題ね? どおりで祝う気があんまりないと思った」
ブライ「おぬしが言うか」
アルス「あっちにいる時、マリベルはピンチになると『誰かあたしを守りなさいよ……』って言ってるんだって」

 レックが心配そうに覗き込んでも、ソフィアが納得していても、ブライがツッコミを入れても、アルスは誰もいない真正面に向かって話し続けている。

アルス「僕たちと一緒に冒険してる時は、いつも僕一人に名指しで言ってたのに……他の特定の一人に『守って』って言わないんだね……ああ、僕のマリベルがあんなにも可愛い……守りに行きたい……」
ソロ「やべえ、完全にイカれてやがる」
エイト「何か悪いものに憑かれたのかもしれないね」
ノイン「落としましょうか?」
エイト「君の場合、取り返しのつかないものまで落としそうだからやめて」

 ちなみに、ノインはファイティングポーズで提案している。

アルス「でも僕はマリベルのところには行っちゃいけないんだ……だけどマリベルは可愛いから大丈夫……僕が守らなくても、きっと他の誰かが……」

 アルスの口がぴたりと静止する。レックがいよいよ、恐る恐るその肩を揺する。

レック「あ、アルス?」
アルス「やっぱり僕が守りたいよー! うわーん!」

 アルスは突如泣き出した。そのまま突っ伏し、ちょうど目の前にあったミートソーススパゲティに頭から突っ込む。

レック「わーっアルスーっ!」
ソロ「やっぱりこいつおかしいだろ!」
ナイン「普段のアルスさんだったら、こんな古典的な泣き方なんてしません」
ノイン「アルスさん、しっかりしてください!」
ソフィア「ちょっと、こういう時こそ年の功よ! ブライ何とかして!」
ブライ「都合のいい時だけ頼るんじゃないわい」
ソロ「まだ拗ねてんのかよ」
ブライ「拗ねてなどおらんッ」
ソフィア「じゃあライアン……っていないし。どこ行ったのよ!」
ブライ「厠じゃ」
ソフィア「うっそでしょ!?」

 一同、てんやわんやで騒ぐ。アルスは顔中ミートソースだらけにしながら、ぐずっている。

アルス「分かってるんだよ、僕はマリベルの下僕じゃなくて恋人なんだけどマリベルの下僕したい人はたくさんいてそれだけじゃなくて恋人したい人もきっといっぱいいてだからマリベルが僕一人に対してだけ『守れ』って言ったってそんなの特別でも何でも──」
レック「何言ってるか分かんねえけど、マリベルの一番はお前だよ! 安心しろよ」
アルス「マリベルの一番は、僕……?」

 初めてアルスが語りかけに反応を見せる。

アルス「そんなわけないよ。だってマリベルはあんなにも可愛いんだから……僕はカッコいいなんて言ってもらったこともない、田舎の漁師だし」
エイト「そんな、君らしくもないこと言わないでよ」
ソロ「いつもお前はクールだって俺たちが言ってるだろうが。おいアルス!」
アルス「でもいいんだ。マリベルはあんなに可愛いんだから……」
ソフィア「アルスー! アルスも可愛いよ!」
ノイン「そうですよ、現に私のアルスさんの第一印象は『可愛い人だなあ』でした」
ナイン「僕は『すごいサウスポーが来た』でした」
ソロ「お前らそれ何褒めてんの?」
アルス「僕のマリベルがあんなにも可愛い……」

 アルスは鼻にスパゲティをつけたまま、またにこにこと笑い始める。レックが顔を顰める。

レック「ダメだ。また振り出しに戻った」
ソフィア「ライアンまだ!? トイレに行くのにどんだけ時間かかってるの?」
ノイン「迷子にでもなったのでしょうか?」
ナイン「迷子……? まさか!」

 ナイン、懐から球体を取り出し覗き込む。

ソロ「おい、その玉って」
ナイン「夢占い師の水晶です」
レック「あ、やっばりそれか! めっちゃ見たことあると思ったー! で、急に何でそれを?」
ノイン「まさか……」

 一同、ナインのまわりに駆け寄り、水晶玉を覗いて黙り込む。
 水晶玉の中には、見知らぬ風景の中を歩くピンク鎧の姿が。

ナイン「ライアンさんは、【ニソテソド─スイッチ版ヒ─口─ズ2】に【出演】なさったようです」

 ナイン、淡々と見た事実を告げる。

 一同、沈黙。

 ソロ、人垣から離れ自身のグラスを手に取る。
 それに続いてソフィアが、エイトが、レックが、ノインが、最後にナインがコップを持ったのを見て、ソロは自身の杯を掲げる。

ソロ「じゃっ、ジイさんを労って! カンパーイ!」
一同「いーえーーーい!」
ブライ「やかましいわいッ!」

アルス「僕のマリベルは【ニソテソド─スイッチ】でも可愛い……」












20170401