女の子だったら




※シナリオ形式。












 酒の席にて。サタルがふと思いついたように言う。


サタル「エイトってさ」
エイト「うん?」
サタル「可愛い顔してるよな」


 一同、一斉にサタルを見る。サタル、照れたように笑いながら


サタル「何だよみんな。いくら俺がイケメンだからって、そんなに見られたら照れるだろ」
ソロ「いや、俺より上のイケメンなんて存在しない」


 ソロがさらりと言うが、サタルは気にするそぶりを見せない。


サタル「ま、だよねー。エイトはどっちかって言うと可愛い系だけど、ソロはまじ美人だよな」
アレン「……サタルさんって、もしかしてその……両刀なんですか?」


 アレンがおそるおそる問う。サタル、首を振って


サタル「いや、残念ながら女の子専門かなー。二人が女の子だったら絶対口説いてたよ」
エイト「あはは……勘弁してよ。サタル、酔ってるんじゃない? 水飲みなよ」


 エイト、苦笑しながらサタルに冷水の入ったグラスを手渡す。サタルはそれだよ! と叫ぶ。


サタル「ほら、そういうとこ女子力高い! いますぐ嫁に行ける!」
エイト「そんな大げさな」
レック「や、でも俺ももしエイトが女だったら是非嫁に来て欲しいなー!」


 レックがエイトの肩に腕を回しながら言う。エイト、両脇の男達を見比べて困ったように


エイト「えー……バーバラさんは?」
レック「あ、そうだった。でもそこはまあ……俺王子だし? 一夫多妻制にしちゃえばいんじゃね?」
アレン「うわサイテーだこの野郎!」
アベル「そんなこと言ってると、バーバラちゃんに嫌われちゃうよ?」


 アレンが盛大に顔をしかめて、アベルが穏やかにたしなめる。レックは唇をとがらせる。


レック「いんだよ別にぃ。だってあいつだってテリーが仲間になった時なんかキャーキャー言ってたし! なあエイト俺の嫁になろうぜ! なんなら第一王妃でどうだ!?」
エイト「どうだじゃないよもう! 俺にはミーティアがいるし、第一俺男だから! ほら飲みすぎだから水飲んで」


 レック、言われるままにグラスを煽る。しかしすぐさま飲み干して、アレンを指さす。


レック「てかお前はエイトを嫁にしたくないのか!?」
アレン「さっきエイトが言ったこと聞いてなかったのかよ!? 俺はお前と違って硬派なんだよ!」
サタル「硬派……人は時として、それをウブと呼ぶ」
アレン「う、うるさいです!!」


 サタルが歌うように言って、アレンは顔を赤らめて叫んだ。そこで、それまで黙々と食していたナインが遂に口を開く。


ナイン「でもアレンさんがもし女性だったら、ツンデレでウブで恥ずかしがりっていう凄い萌え属性持ちになりますよね」


 一同、静まりかえる。皆の視線がナインに集まる。


アルス「ナイン、その、萌えって何?」


 のほほんと微笑むアルスが場の張りを解した。ナインは真面目な顔で答える。


ナイン「書庫にあった薄い本に書いてありました。どうやら激しく心がかき乱されて身もだえするような心情のことのようです」
アルス「へー、大変だねえ」
ソロ「天使パネェ」


 ソロは何食わぬ顔で呟いてつまみを取る。一方、その隣でサタルは顎に手を当てる。


サタル「確かに、肉弾戦が鬼みたいに強くて気も強い女の子が実は恋愛沙汰に疎くて恥ずかしがり屋っていうのは王道だな。そして俺の好みでもある」
アレン「アンタの好みなんて聞いてねえ!!」


 アレンは悲鳴を上げる。その肩を、アレフが叩く。


アレフ「良かったな」
アレン「何が!?」
レック「うーん、伏兵だな!」
アレン「適当なこと言ってんじゃねーよ!」


 快活に言い放ったレックにアレンのツッコミが入る。サタルは満足そうに頷く。


サタル「さすが俺の子孫だな。俺、女の子のアレンとも付き合ってみたいかも」
アレン「アンタ何でもありなんですか!?」
サタル「それはもう、俺は全ての女性のナイトだから」
エイト「なんかその台詞聞いたことある」


 エイトがぼそりと言う。サタルが指を折り始める。


サタル「たとえば、アレフは生真面目でウブな典型的可愛いタイプだろ?」
アレフ「自分のようなふつつか者でよろしければ……」
アレン「アレフさん違います。落ち着いて下さい」


 正座しかけたアレフをアレンが制した。


サタル「アレンはさっき言ったとおりツンデレ。俺は自分を攻略できないから置いといて、ソロは高嶺の花だけど口が悪くて悪戯好きっていうギャップがいいよな。絶対魔性の女タイプ」
ソロ「簡単に落ちねえよ、俺」
サタル「そこがいい」
アレン「黙れ」


 アレンの厳しめのツッコミ。サタルはめげずに指を折る。


サタル「アベルは穏やかで優しいけど芯の強い、良い奥さんになりそうだよな」
アベル「ありがとう。でもやっぱり奥さんにはなりたくないな」


 アベルは日だまりのように微笑んで言う。


サタル「レックは一緒にいて楽しくなれるような、元気をくれる女の子になるな絶対」
レック「任せとけ!」


 親指を立てる彼に、何を? とは誰も聞かない。


サタル「アルスはのんびり屋の癒し系っぽい。体も小さくて可愛い、小動物みたいな感じの」
アルス「はあ」


 アルスは首を傾げている。


サタル「エイトは問答無用で俺の嫁」
エイト「やめろって」
レック「いや俺の!」
ソロ「いやここは俺が」
アレン「野郎を野郎で奪い合うな! 暑苦しい!」
ナイン「アレンさんのツッコミも結構暑苦しいですよ」


 ナインのさりげない一言は、運良く当事者の耳には入らない。


サタル「ナインは……見た目は間違いなく可愛いんだろうけど、こう……楽しそうだよな」
ナイン「こう?」
レック「どう?」
サタル「いやその……色んな意味で色々吹っ飛ばしてくれそうな気がする」
ナイン「何だか抽象的ですね」


 ナインは小首を傾げる。サタルは頷いて、太陽も霞まんばかりの良い笑顔を浮かべる。


サタル「何にしても女の子なら全員付き合える! 女の子は素晴らしい!!!」
アレン「結局そこかよ!」


 アレンは即座に叫ぶ。


サタル「でもまあとりあえず俺としてはエイトを――」
エイト「それはもういいから! すいませーんお会計お願いします!」


 一行の嫁が店員を呼んで、長い夜に一区切りをつけたのだった。









20131220