スライムでも分かる!ウチんとこのパーティー
※「スライムでも分かる!ウチんとこの歩き方」のおまけです。アレフのパーティー編成プチ講座。会話劇ですがよろしければどうぞ。
ナイン「先程はありがとうございました。では改めまして……アレフさんは僕達十二人の力を、どのように分析なさって選んでいるのですか? 僕とっても気になってるんです」
アレフ「さっきも言ったが、まず大きく戦士系、僧侶系、魔法使い系、賢者系、補助系に分ける。その中から目的達成に必要な能力を持ったメンバーを選んでいる。それから考える余裕があれば司令塔役、参謀役、リーダー、前衛、後衛も考慮する」
アレン「は、はあ」
アレフ「まず、戦士系は体力と力が特にある奴のことだ。俺やアレン、ソフィア、アベル、レック、ノインがそうだろう。僧侶系は回復呪文に秀でる者。これはなかなか該当者が多いようでそうとも言い切れない。蘇生呪文が使えて回復まで抜かりなくできるとなると、アベルとアルスくらいだろう。魔法使い系は攻撃呪文が得意な者。ギガデインが使える奴は大抵これにあてはめている。賢者系は呪文による攻撃、回復、補助もこなせる者。サタルさんとナインの二人だけだ。補助系は冒険の役に立つ特技を持つ者」
アレン「は、はあ……」
アレフ「あとはそれぞれの細かい能力を考慮だ。たとえば俺は見ての通り剣一筋の戦士系で力、体力、スピードなら他のメンバーより勝っている自信があるが、呪文の方はずっと劣る。簡単な回復呪文と攻撃呪文、補助呪文が使えるだけだからな」
アレン「でもリレミトとルーラがあるしいいじゃないですか。レミーラも使えますし。俺なんて何もですよ。まあその分素手での勝負と馬鹿力は負けませんけどね」
アルス「アレフもアレンもずば抜けて力と体力があるから、前衛としていてくれると頼りになって安心だよね。攻撃に魔力も使わないし。あと何だっけ、気闘?」
アレン「そうだ。秘伝書にあってな、生命エネルギーを使って攻撃する衝撃派のようなものだ。長期戦でも使える」
アルス「そんな二人はかなり戦士系なんだよね。でも先祖のサタルはバリバリの賢者タイプだよね?」
アレフ「あの方は、俺達から比べると体力がそこまでというだけだが、それでも人並み以上あると思う。剣も俺如きでは読みづらい、難しい太刀筋をなさっている。ただ魔法が協力すぎることと、もともとお身体がそこまで強くないことがあるから」
アレン「まあそれより、あの人は何でも頭と幻術で済ませちゃうんだけどな」
アルス「サタルのことは僕、あまりよく分からないんだ……ナイン、君は分かる?」
ナイン「彼は僕にも謎が多いですが、アレフさんの言うところの賢者系補助系、そして世界を駆ける翼としてよく似た役回りをこなしますので多少は分かると思います」
アルス「説明してみてくれる?」
ナイン「僕と比較してご説明しましょう。彼の大きな武器は三つ。膨大な魔力、精緻な魔法コントロール、総合的な分析力です。一方僕は彼ほどではないものの魔力は多い方ですし、コントロールも得手としています。おまけにこの通り五感が人より優れておりますので、探知と分析なら誰にも負けません。だから僕が探知分析型なら彼は分析探知型でしょう」
アレン「……悪ぃ、分かんねえ」
ナイン「僕は五感を駆使して周囲を探ることで情報を得て、打つべき手を考えます。サタルさんは逆で、打つべき手を瞬時に叩き出してそのためのツールを捻り出すのです」
アレフ「何だか分からんが、サタルさんが凄いことは分かった」
アレン「アレフさん……(溜め息を吐く)」
アルス「つまり、逆なんだね」
ナイン「はい。勿論サタルさんのまさに願ったままを叶えるような魔法の力は凄いものです。ですが、それより恐ろしいのは何でも思うままに蹂躙してしまうその思考の切れ。僕には掴み切れない人心までも貪欲にツールとしようとする彼には、恐れ入るばかりです」
アレン「まっ、ぶっ倒れたら終いだけどな」
アルス「ぶっ倒れる? ああ、何度かあったね。原因は体調?」
アレフ「そのようなものだ。あのように恵まれた魔力だとお身体に響くこともあるようでな。酷い時はサンドラさんが駆けつける」
アルス「サンドラ……サンドラは、総合して能力が高いよね」
アレフ「サンドラさんはどの型にも当てはまらない。蘇生呪文こそ使えないが最高位最大範囲回復呪文を使えるオールマイティーなんでな。どちらかと言うと司令塔や参謀役として見ることの方が多い」
ナイン「いつでも冷静ですからね。型を破らない分安定感もあります」
アレン「すみません、その……司令塔役とか参謀役って何ですか?」
アレフ「司令塔はパーティーに指示を出す者。参謀は作戦や戦況を考えることが得意な者。リーダーはパーティーを引っ張る者」
アレン「司令塔やリーダーって一緒じゃないんですか? それに、戦況は皆考えるものなんでしょう?」
ナイン「司令塔、リーダー、参謀を一手にこなすというのはなかなか難しいものなのですよ。たとえば僕は参謀のように戦況を分析し作戦を考え司令塔として指示をすることはできますが、リーダーとしてメンタル的にもパーティーメンバーを引っ張るのは得意ではありません」
アレン「ああ……」
アレフ「リーダーは指示を出す必要はないんだ。パーティーの気持ちをくみ取ることができる者、沈んだ心を軽くすることができる者、こういったようなことができる者をリーダーと呼んでいる」
アルス「僕達は基本的に、全員どれも経験したことはあるからできるんだよね。でも、パーティーメンバーの組み合わせによってこなす役割が変わることはある。だからその組み合わせによってそのパーティーで誰がどの役割をこなしそうか推測する。そういうことでしょ?」
アレフ「そうだ」
アレン「頭が……」
アレフ「つまりサンドラさんはぼんやりしている日でさえなければ、安定しすぎていてどのパーティーでも根幹として組み込めるということだ」
アレン「はあ」
アルス「そういう意味で言えば、ソロやエイトもそうなんじゃない? 二人ともハイスペックだよ?」
ナイン「貴方もですよ、アルスさん」
アルス「僕?」
ナイン「三人とも攻守回復ともに優れてますから。ソロさんは頭の回転が速く、司令塔もリーダーも参謀も同時にこなせる貴重な人材です。抜け目ないですし、土壇場でフェイント技やハッタリを仕込める度胸も演技力もあります」
アレン「腹立つけど、アイツ土壇場ひっくり返すの上手いんだよな」
アレフ「時折感情に流される嫌いがあるのと太刀筋はやや乱暴だが悪くない。体力も根性もある。いい戦士だ」
ナイン「アルスさんは誰よりも戦闘技術が豊富です。戦士としても優秀ですが回復呪文も多く使いこなしますし、攻撃呪文も得手とする。更に魔力を消費しない特技をたくさん覚えていらっしゃる」
アルス「でも、僕は他人に指示を出すのもリーダーも苦手だよ」
ナイン「そういった自分を客観的に把握しているところも素晴らしいのです。自分の能力と限界を知ることは大きな武器です。その面では、アルスさんはトップクラスかもしれません」
アルス「そんな……(やや頬を赤らめる)」
アレン「お前凄いんだから自信持てよ」
アレフ「そうだ。自分を誇りに思え」
アルス「む、無茶だよ……」
ナイン「そしてエイトさんは強力な火炎呪文を使いこなせるのが強みですね。鋭く威力が高い攻撃が持ち味です。協調性と柔軟性が高いところも評価できます。決断力が時折鈍るところが弱みではありますが、逆に非情なまでの決意を見せた彼は凄いですね。迷いも一切消えて鋭さが更に増す。一になるのが上手いのです」
アルス「うーん……そう言えばエイトは前に自分のこと残酷だって言ってたなあ。僕は優しいと思うけど」
アレフ「俺も普段見ている限り優しそうな男だと思うが」
アレン「でも、ああいうタイプって怒ると怖そうだよな」
アルス「それはうん、言えてるかも」
アレフ「怒ると怖いと言えばアベルだろう」
アレン「アベル? アベルが怒るところなんて想像もできませんよ」
アレフ「だから怖そうだと言っているんだろう。あれだけ優しい男が怒るってよほどのことだぞ」
アレン「…………」
ナイン「アベルさんは戦士系で僧侶系ですね。彼は天性の魔物使いですから生まれついたリーダーで司令塔と言っても過言ではないです。その信頼性は僕達の中で一番でしょう」
アレフ「アベルがいるだけでパーティーの雰囲気がぐっと変わる。落ち着きが出て、まとまりやすくなる」
アレン「指示も動きやすいですよね」
アルス「それに僕達のことすごくよく見てくれるよ。怪我してたり様子がおかしいといち早く気付いてくれるし、場の空気も緩めたり高まらせたりしてくれる」
アレフ「リーダーの鑑だな」
ナイン「その通りです。彼はまさに縁の下の力持ち、目立つことはあまりなさいませんが着実に周囲を支えてパーティーを導くことができます」
アレン「アベルさんてすごいよな……憧れる」
アルス「僕も。魔物ならしも凄いよね」
ナイン「あの能力は素晴らしいです。エルヘブンの血による影響と本人の人格がそうさせるのでしょうが、あそこまでいくと一種の魔術ではないかと思いますね。妖精族の使う魅了に似ています」
アレフ「あの力のお陰で無駄な血を流さないで済むことも多いから、有り難い限りだ」
アレン「血……残ったメンバーは流血沙汰多いな」
アルス「あと話してないのってソフィア、レック、ノインだっけ? 確かにそうだねえ」
アレフ「アイツらは破壊性が強すぎるんだ。俺達が生き残るためには必要なことであるがな」
ナイン「三人ともどちらかと言うと戦士系で、リーダーですね。持ち味は勿論違いますが」
アレン「俺はあの中で一番ソフィアが怖ぇ。殺る時は容赦ねえし執念深い」
アレフ「自分が瀕死の重傷でも、敵が動いていれば戦うのが彼女だ。俺もあの根性は見習いたいと思う」
アルス「根性っていうか、あれはもう執念だよね。気合いというか闘志というか、凄いよ。僕は適う気がしない」
ナイン「人間の意志の力は恐ろしいですから。あの強固な意志は彼女の最大の武器と言えるかもしれません」
アレン「剣はちょっとまっすぐすぎるけどな」
アレフ「正々堂々としているのはいいことだ。俺も剣はシンプルにする方だが、彼女はもっと飾り気がない。豪快な一本勝負だ」
アルス「豪快さならレックが一番凄いと思うよ」
アレン「アイツはワケ分かんねえよ。何だあのハイテンション。軽業師かよ」
ナイン「動きがかなりトリッキーなのは彼の長所です。敵の混乱を誘えます」
アルス「しかも叫んだり笑ったりするから余計混乱するよねえ」
アレフ「その余裕は俺にも欲しいところだ」
アレン「あれ、余裕っていうか反射みたいなもんだと思いますよ」
アルス「水飲んだ後『ぷはーっ』って息吐いちゃうのと一緒だと思う」
アレフ「何だと?」
ナイン「快感なのでしょうか?」
アルス「それを快感っていうのかどうかは知らないけど、楽しいんじゃないかな」
アレン「気持ちは分かる気がする」
アルス「アレンとレックはバトルとか駆け引きや緊張感を楽しいと感じられるタイプだからだよ。僕は皆との模擬試合ではよく楽しいと思うけど、実戦ではなかなかだから違うみたい」
アレフ「俺も戦闘は楽しいと思うが、叫び声は出ないな」
ナイン「個人差というものでしょうか」
アレン「そうなんだろうな」
アルス「君達のそういうところ、僕羨ましいよ。戦闘中って気が張りつめがちで、前向きに気持ちを持って行くのが難しいから」
アレフ「レックの前向きさと積極性、大胆さは悪い結果に繋がりかねないところもたまにあるが、いい方向に向いてくれればこれほど頼もしいものはない」
アルス「ぐいぐい背中も押しながら引っ張ってくれるからね。追い詰められてる時とか、どーんと気楽に構えててくれるから助かるよ」
アレン「腹立つこともあるけどな」
ナイン「なるほど。レックさんの武器は職業経験からくる軽い身のこなしと魔力を消費しないコストパフォーマンスのいい攻撃にあると思っていたのですが、メンタル的な強みがかなりあるのですね」
アルス「そうなんだよ」
アレン「ただの能天気野郎って言えばそれまでだが」
アレフ「楽観性と言えば、ノインの危機意識は俺は危険だと思うぞ」
アレン「アレフさんもそう思います!? 俺もそう思って何度も言ってるのに聞かないんですよアイツ!」
アルス「あれはねえ……危ないよね。いくら痛覚を遮断して敵の攻撃を受けながら攻撃するのが隙がつけていいからって、もっと自分の体を大事にした方がいいよ」
アレン「なあナイン! お前アイツの相棒だろ!? 何とか言ってやってくれよ」
ナイン「僕だってハイリスクすぎると何度も言っています。ですがいつも『大丈夫』の一辺倒です。彼女の肉体制御は本来なら人体が意識的には出しえない力まで出せるのでそこは素晴らしいのですが、痛覚遮断は問題だと僕も考えています」
アルス「ノインはフォースを使うのが上手いし貴重な補助呪文も使える人だし、それ以上に仲間としてあまり危険なことを進んでやって欲しくないんだけど」
アレン「あれ、毎回怖ぇんだよ……俺は回復呪文使えねえから治してやることもできねえし」
アレフ「彼女の腕なら自分の体を囮に使わなくとも敵をあっさり倒せそうなものだが」
ナイン「直球でいくのが効率がいいと思っているんです」
アルス「いいアタッカーなんだから、身体をもっと大切にしてほしいなあ。僕達は身体が資本ないと存在できないんだから」
ナイン「僕もあまり行き過ぎるようなら……と考えています」
アレン「まあアイツがもし敵で突っ込んで来たら間違いなくおっかねえけど」
アレフ「それは他もメンバーでもそうだろう。俺は自分以外の十一人、だれも敵に回したくない」
ナイン「いやあ、つくづく皆さんが敵じゃなくて良かったと思いますよ」
アルス「基本的に皆強いからね」
アレフ「あとは目的次第だ。たとえば任務で敵の陣地を壊滅させよと言われた時はどうする?」
ナイン「僕ならば戦士系三人と賢者系一人で組みます。レックさん、ソフィアさん、アレフさん、アレンさんの中から三人と、僕かサタルさんあたりが妥当でしょう。攻撃性重視です」
アレフ「そうだな。俺も恐らくそう組む。ならダンジョン探索ならどうする? アレン」
アレン「えー……ナインを入れます。リレミトも探知もできるんで」
アルス「うんそうそう。あとは?」
アレン「あー、戦士系と僧侶系と魔法使い系を一人ずつか、オールマイティーを二、三人入れます。盗賊のスキルがあるといいから、アルスがいるといいな」
アレフ「そうだ。そのようにすればいい」
ナイン「精神面も考慮するのですか?」
アレフ「それはついででいいだろう。皆力はあるからどんな組み合わせでもいける。ただ、難易度の高いダンジョンだと少し考えた方がいいかもしれない」
アルス「ああそうだねえ……たとえば長くて暗い洞窟に僕やサンドラ、エイトみたいな考え込みやすいタイプが固まっていくとだんだん鬱屈してきそうでしょ? だからそこにレックみたいなのを入れると雰囲気が変わっていいんじゃないかな」
ナイン「なるほど」
アレフ「他にも潜入任務の時は周囲に溶け込むスキルの高そうなサタルさん、ソロ、エイト、それから変装技術のあるナインも補助役に入れるといいだろう。護衛任務ならばリーダーとしてアベルをお勧めする。攻守の見極めが上手いし、そういったことに慣れているからな。他にも色々な任務が来るだろうが、基本的に依頼された内容について詳しい者がいれば組み込んだ方が良い」
アレン「あー……そうなると、本当に仲間の得意不得意って分かっといた方がいいんですね。やっと重要性が分かってきました」
アルス「本当にそうなんだよ。前に珍しい例なんだけど、古文書探索っていう依頼が来たこともあって」
アレン「何だそりゃあ」
ナイン「神霊界記録室に蓄積された書物の中から指定されたものを探し出すようにという依頼でした」
アルス「あの時は神話と神霊文字に詳しいサンドラとナインとノイン、あと一部は読める僕で行ったんだっけ。あれは苦労したなあ」
アレン「戦闘以外のことも、知っとく必要があるわけだな……」
アレフ「ざっとこんなものだろうか。少しは役に立ったか?」
ナイン「はい。僕は肉体的なステータスばかり考えていて、性格や精神面の及ぼす影響をよく分かっていなかったため勉強になりました。ありがとうございました」
アルス「僕もためになったよ。仲間って、たくさんいると楽しいね」
アレフ「そうだな……俺も最近、そう思う」
アレン「アレフさんは一人で頑張り過ぎなんですよ。俺達も折角いるんだから一緒にやっていきましょうよ」
アレフ「ああ、すまない。そう言えば先日サタルさんにもそう言ってもらえたんだ」
アレン「良かったっスね……」
ナイン「皆さんありがとうございました。ふつつかではありますが、これからもよろしくお願い致します」
20150126