好きだ、って言ったら逃げるくせに
アレフ×サタル
最初は面と向かって伝えた。
次は会話の流れにさりげなく差し込んだ。
その次は両手を押さえて殴りつけるように叫んだ。
でも、どれに対してもあの人は返事をしなかった。
飄々としたいつもの微笑を浮かべ、するりと別の話題に変えてしまう。
聞き返すことも、否定することもない。
ストレートな表現はまずいのかと考えて、赤い薔薇を三本差し出したこともあった。
その時の返事はこうである。
「綺麗だな。ナインにドライフラワーにしてもらって、宿の玄関にでも飾ろうか」
ことごとく受け取ってもらえないのだ。
粘り強く一日一本薔薇を贈り続けようかと迷ったが、それを全てドライフラワーにして憩いの宿屋中に飾られたらどうしようかと考えて、やめてしまった。パーティーメンバーまで巻き込むのは気が引ける。
どうやって思いを伝えよう。
しばらく迷っていたら、とんでもない事件が起きた。
何が起きたかは割愛する。結論だけ言うと、俺はあの人に手を出してしまった。
しかも間の悪いことに、その夜宿には誰もいなかった。
つまり、止める者がいなかったのだ。
だから気づいた時にはカーテンから青ざめた空がのぞいていて、白々とした光に気を失ったあの人が曝け出されていた。
一瞬で頭が冷えた。
謝らなければいけないという一心で彼を起こし、気怠げに目を擦る姿に土下座した。
あの人は、きょとんとしていた。
「なんで謝んの? 俺が無理矢理されたとでも思ったわけ? 笑えるわあ」
声を上げ、手を叩き、笑う。
俺は戸惑った。
「だって、サタルさんと俺はそういう関係ではないのに」
「関係の名前が欲しいの? 俺は嫌だよ。何がしたいかっていう、それだけでよくね? あー、寒い。毛布借りていい?」
お互い全裸だったのを忘れていた。
サタルさんは毛布を体に巻きつけてベッドから降り、正座する俺の正面に屈み込んだ。
「アレフは欲求不満なの? ローラ姫とは──」
「ローラは、思いを伝えて愛情を深める分にはいいと」
「ふーん。その感じだと、ローラ姫は俺がどういう反応をするか分かってたんだろうな。懐の広い奥様で。いや、王侯貴族ってそういうものなのか」
俺がみなまで言わないうちに、サタルさんは一人で納得して俺の目を覗き込む。
「昨夜俺が言ったこと、ちゃんと聞いてた?」
「え?」
何か、これまでの俺の行動に対する返事めいたことを言っていただろうか。
記憶を探っていると、サタルさんが言った。
「気持ちいいって言ったじゃん」
不意に、鳩尾を殴られたような衝撃を与えられた。
俺は俯き、目を覆う。
サタルさんは喋り続けている。
「俺は相手が女でも男でも関係なく、基本的にタチやりたいんだよ。だって張り切って仕切られても、気分が乗らないと白けるし」
「す、すみま」
「でも、アレフはすげーな。やっぱりフィジカル強ぇと半端ないわ。正直勢いだけだったけど、それが逆にいい気がしたもん。ずるいな」
顔を上げると、形の良い碧眼を茶目っぽく狭めて、
「気持ちよくて、いっぱいトんじゃった」
そんなことを囁かれた。
「お前のタチなら悪くないかも。昨日みたいな形でされるならいいかな。意識無くすの、クセになりそう。あれ?」
気づかれないよう、頭を抱え込むようにしてさりげなく上体を折ったのに、サタルさんはわざわざ俺の肩を押さえて覗き込んできた。
「わあ。陛下ったら、お元気ぃ! 御物が国宝してるねえ」
「変に持ち上げる体で貶すのやめてください。ただでさえも今、自己嫌悪で消えたかったところなのに」
「いいじゃん。可愛いよ、アレフ」
後半は耳に吐息を吹き込むようにして言われた。
しかも、抑えきれなくて身体が跳ねたのを見て笑われた。
最悪だ。
「遊んであげようか?」
長い指が俺の腿を這う。
触れるか触れないかという距離がもどかしくて、余計血が滾る。
俺は、この思いを伝えて大事にしたかったのに。
そう嘆く声が心の片隅から聞こえるが、今は聞いている余裕がない。
正直、好きにされてしまいたい。
「お願いします」
「素直でよろしい」
20220530 診断メーカー「お題ひねり出してみた」をもとに執筆