全員の像を庭に置きたい




※22クイーン総選挙とver6までのネタバレ有。













 イチゴと生クリームでデコレーションされた巨大ケーキの地平線を穿ちそびえたつ、五段重ねのチョコレートファウンテンを模したショコラフォンテヌ城は、季節限定の祭りの地として知られている。
 祭りの名は、アストルティア・クイーン総選挙。
 その年に評判になった全世界の美女たちを集め、一年の顔となる美女一人を決めるイベントである。
 ショコラフォンテヌ城へ向かう桟橋の途中に、旅の扉がある。
 その先はスイーツゾーンと呼ばれる、歴代クイーンの彫像を展示した部屋に繋がっている。
 今、そのスイーツゾーンの中心に見慣れぬ像──否、少女が佇んでいた。
 黄金のティアラを冠し、天鵞絨のマントを背負う背中には、年頃に似つかわしからぬ威容が満ちている。
 しかし、その顔立ちはまだあどけなく、さらに迷い子のような戸惑いを浮かべていた。
 青い瞳は、居並ぶクイーン像一つ一つを映していく。
「アンルシア」
 呼ばれて、振り返った。
 扉の狭間から、色の白い乙女が覗き込んでいた。
「イルーシャ。来てたのね」
「うん」
 おっとりと微笑する乙女に、アンルシアは微笑みを返す。
 若菜色のドレスを靡かせ、イルーシャはアンルシアに歩み寄る。
「なんだか、元気がないみたい」
「そ、そう?」
「何か、悩みごと? 私でよければ聞くわ」
 イルーシャの優しい口調に誘われ、アンルシアは胸の内を漏らす。
「実は、新しく作ってもらう像のポーズが思いつかないのよ」
「像。投票者に配られる、あれね?」
 アンルシアは頷いた。
 アストルティア・クイーン総選挙では、毎年本選出場者の彫像が作られる。
 像のポーズは、モデルとなるクイーン候補自身が発案し、取り仕切り役であるミローレとの相談で決まる。
 クイーン候補全員が同じテーマでポーズを取ることもあれば、それぞれが思い思いのポーズを取ることもある。
 今回はミローレ曰く、
「皆さんらしいポーズで、思い思いにどうぞ」
 つまり、自由題なのである。
「私は勇者、勇者といえば戦闘。私に投票してくれる人たちに渡すなら、戦う姿の像がいい。バトルプリンセスなんて呼び名もいただいているから、それに恥じないものをと思って、これまでやって来たわ」
 初回作った像から、剣を手にしていた。
 その後も、身構える姿勢や刺突の姿勢など、戦う自分の姿を案として提出し、ミローレにも認められてきた。
「でも、迷ってるのね?」
 イルーシャが問う。
 アンルシアはおずおずと頷いた。
「去年の戦いの中から、いいポーズを考えてみたの。みんなで力を合わせて撃ったミナデインのイメージが強かったから、そのポーズを提案してみたのだけれど、却下されてしまって」
 ──ミナデイン自体は悪くないですが、クイーン候補のポーズとしてはどうでしょうか? ミナデインのポーズは、こう、両手を天に掲げる姿勢ですよね。空中家具と組み合わせて、『物を浮かせるアンルシア姫』みたいな、ネタハウジングに使われませんか?
 ミローレは、アンルシアが提出したポーズの写真を見て、そう言った。
 もらってくれた人が楽しめるならばいいと言ったのだが、彼はなかなか首を縦に振ろうとしなかった。
 ──せっかく考えてくださったのに恐縮ですが、もう一度考えてくださいませんか。もっとあなたらしくて新しいポーズがあるはずです。
 それから精一杯考えてみたのだが、ネタが思い浮かばない。
 困り果てて、歴代のクイーンの姿を参考にできないかと、スイーツゾーンに来た次第なのである。
「アンルシアらしいポーズ」
 イルーシャは首を傾ける。
「確かに、あなたの戦う姿はカッコいい。私もいつか絵にしたいと思ってるくらいよ」
「あ、ありがとう」
 アンルシアは頬を赤らめた。
「でも、すでにあなたは戦う姿を像にした。それも、三体もある。新しいポーズを、ってミローレさんが言うのも分かるわ」
「新しい……」
 アンルシアは唸る。
 料理中の像は作った。ピクニックに行った姿も像にした。雨の日に傘をさすところまで彫像にしている。
「こんなに像を作る機会をもらえて、私は幸せだわ」
 つい悩みから逸れて、しみじみとこれまでを噛み締めてしまう。
 イルーシャは微笑む。
「私も、今年もアンルシアの像がもらえて嬉しい。もう、これからもらえるものも、おうちに飾ることにしてるのよ」
「大魔王城に飾るの?」
 大魔王城に飾られたら、イルーシャはともかく、盟友や三魔王らにも見られることになるのではないか。
 それは、なんだか恥ずかしい。
「大丈夫よ。私のお部屋に飾るから。私一人で、じっくり鑑賞するのよ」
 芸術って、そういう時間が大切でしょう?
 イルーシャは言う。
 それもそれで恥ずかしい気もする。
「イルーシャは、今年の像のデザインを決めたの?」
「うん。キュララナ海岸に行った時の思い出を、像にしてもらうことにしたわ」
 とろけるようなイルーシャの顔に、アンルシアは胸が詰まる。
 やっとのことで口を開く。
「……そう。きっと、素晴らしいものになるでしょうね。楽しみだわ」
「ええ。私も楽しみ」
 また、スイーツゾーンの扉が開いた。
 軽やかにやってきたのは、天色の髪を丸いボブに切りそろえた少女と、小さなクモを彷彿とさせるプクリポ系の魔族。
 総選挙常連のセラフィと、新顔のウェブニーである。
「あ、勇者さんと巫女さんだ」
「ギョエエエ! このヒトが勇者ッシュかぁ!?」
 セラフィは手を振り、ウェブニーはのけぞった。
 アンルシアが一歩前に出ると、小さな魔族はセラフィの背後に隠れた。
「あなたがバルディスタの間諜、ウェブニーですね。魔王ヴァレリアから話は聞いています」
 アンルシアは片膝を付き、セラフィの脛越しにウェブニーを覗き込む。
「ヴァレリアとまた戦うことができなくて残念だけど、配下のあなたが来たと聞いて、気になっていたの。お互い頑張りましょうね」
 差し出されたアンルシアの手に、ウェブニーは目を丸くする。
 おっかなびっくり丸い手を伸ばし、ほっそりとした彼女の指に触れる。
「バチバチしないでシュル」
「勇者さんがずっと放電してると思ってたの? そんなことしたら、さすがにバテちゃうよ」
 セラフィは退き、ウェブニーの背中を押して二人の手に自分の手を重ねる。
「ほら、はじめましての握手! よろしくねって言うんだよ」
「分かってるでシュル! つたなクモ、今回のウェブニーはバルディスタの代表だから、胸を張らなイトいけないんでシュル」
 よろしくお願いしまシュル、とウェブニーはアンルシアの手を握りこんだ。
 イルーシャは、一連の様子を微笑ましそうに見守っていたが、三人の握手が終わった頃合いを見計らって、さりげなく尋ねる。
「ねえ。二人は、今回配られる自分の像のポーズを決めたの?」
 セラフィとウェブニーは顔を見合わせ、それから大きく頷いた。
「うん。私は、投票してくれたみんなが元気になれるように、とびっきりのベホイミのポーズにするよ」
 セラフィは両腕を広げてにっこりと笑う。
「私も、とびっきりの笑顔にシュルでシュ〜!」
 ウェブニーも両腕を広げ、破願する。
 どちらもとても可愛い。個性も出ている。
 アンルシアが感心していると、イルーシャが言う。
「アンルシアも波に乗っちゃったら?」
「そうだよ。勇者さんも、とびっきりのギガデイン! とかどうかな?」
「そっち?」
 セラフィの提案に、イルーシャは首を傾げている。
 アンルシアは、ギガデインを撃つ時の自分を思い出してみた。
「私らしいけど、ポーズに気を付けないと、ギガデインで威圧しているように見えないかしら」
「真夜中に見かけたらチビるでシュル」
 ウェブニーは想像するだけで震えている。
 セラフィは手を顎に当てる。
「えー、ダメかなあ。ギガデインで光る剣とか、カッコいいと思ったんだけどな」
「私もいいと思うわ。でも、表現する彫刻家さんが大変かもね。これまで、光る彫像はなかったもの」
 イルーシャが言うと、セラフィは手を打ち合わせた。
「そっか、彫刻家さんが困っちゃうのかあ。じゃあ、仕方ないね!」
 そこへ、扉の向こうからまた新たな一団がやって来た。
 先頭に立つ長身の少女は、後ろに続くウェディ、ドワーフ、天使の三人に部屋を示す。
「で、ここがスイーツゾーン。歴代のクイーンの像が飾られる場所で、絶好のフォトスポットなんですよ。とは言っても、見ての通りショコラフォンテヌ城はどこも写真映えするところばかりだから、どこで撮っても絵になるんですけどね!」
 後ろ向きに歩いていた少女が、広間へと向き直る。
 中心に立つ四人を見て、顔を輝かせた。
「わあ! みんな、久しぶり」
「メレアーデちゃん!」
 一つに括った長い髪を靡かせ、メレアーデが駆け寄ってくる。
 アンルシア、セラフィ、イルーシャの手をかわるがわる握り、再会を喜ぶ。
「本選が始まる前に会えてよかった。後で一緒に写真撮りましょ!」
 さらに、ウェブニーを見て両手を頬にあてる。
「あら、可愛い! はじめまして、私はエテーネ王国のメレアーデよ。よろしくね」
「バ、バ、バルディスタのウェブニーでシュル~」
 両膝をついてウェブニーの両手を握る。大きな握手に、ウェブニーの身体も大きく上下に揺れる。
 ひとしきり挨拶を済ませたメレアーデは、背後の三人を示す。
「こちらは今年初参加のお三方。天界からいらした天使ユーライザ様、ドワチャッカ三闘士の一角ナンナ様、ヴェリナード王国の始祖リナーシェ様よ」
 とんでもない新顔が来た。
 アンルシアはかしこまって挨拶する。
 まず応えたのは、リナーシェだった。
「盟友様より、お話は伺っております。当代の勇者様にまでお目にかかれるなんて、夢のよう」
 リナーシェはたおやかに礼をして、メレアーデに向き直る。
「もう、メレアーデさんったら。他のお二方はともかく、私は行きがかり上、このような身の上になっただけですのよ。あまり丁寧にご紹介いただくと、こちらが恐縮してしまいますわ」
「そうそう。アタシらは、アンタと同じで昔の人ってだけなんだから、もっとフランクにいこうよ」
 ナンナが乗じる。
 ユーライザも頷き、胸に手をあてる。
「私は、ファルパパ神のお導きで、偶然この祭典に参加することが叶っただけの新参者です。どうか、ユーライザと軽くお呼びください」
 メレアーデは三人に頭を下げる。
「ごめんなさい。ですが、実際にお話しして、皆様の人柄が本当に素敵だと感じましたために、つい」
「まあ、お上手ね」
 リナーシェはイルーシャ、セラフィ、ウェブニーにもお辞儀する。
「今を時めくクイーン候補である皆様のお仲間に加えていただけて、光栄ですわ。遠く過ぎ去った日のことなど忘れて、姉妹のようにしていただけたら幸いです。よろしくお願いしますね」
「はーい、よろしくお願いします!」
 セラフィが元気よく挨拶する。
「リナーシェさんは、すっごく喋り方が上品だねー。私、アラハギーロのまとめ役なのに、言葉があんまり上手じゃないって言われるから、教えてもらえると嬉しいな」
「まあ。私でよろしければ」
 ナンナとユーライザも、すでにいた面子と自己紹介をし合う。
 それから、三人はスイーツゾーンの彫像を鑑賞しはじめた。
「まだ、ドワーフ族のクイーンはいないみたいだねえ。いつかこの会場で、現代のドワーフに会いたいもんだ」
 一通りクイーン像を鑑賞したナンナに、リナーシェが声をかける。
「そういえば、像の注文はもう済ませまして?」
「ああ。もちろん三闘士のポーズでお願いしたよ」
 ナンナは背負った等身大の槌を構えて見せる。
 リナーシェは微笑んだ顔の横に、合わせた手を添える。
「勇ましくて素敵ですわ」
「アンタはそのポーズだろ?」
「よくお分かりになりましたね」
「司会が、『初出場のメンバーには、その人らしい自然なポーズにしてもらってる』って言ってたからね」
 リナーシェはユーライザを見やる。
「私はお願いのポーズ。ユーライザ様は、導きのポーズでしたわね」
「はい。役目の通りです」
 三人の会話を聞きながら、自分がまだ像のアイディアを思いついていなかったことを思いだしたアンルシアは焦りはじめる。
 もしや、自分だけがまだ決まっていないのだろうか。
 いや、まだだ。
 もう一人いる。
「メレアーデちゃんはどうするの?」
 いつの間にか隣に佇んでいた彼女に聞いてみる。
 メレアーデは眉を下げて微笑んだ。
「うーん。なんとなく決まってるんだけど」
 何でみんな決まってるの?
 アンルシアの焦燥が強まった時、メレアーデが言った。
「あのね、アンルシアちゃん。相談があるんだけど」
「なぁに?」
「像のポーズを、ちょっとだけお揃いにしてくれないかしら?」
 アンルシアは、目を丸くした。
 メレアーデは両手を合わせて拝んでいる。
「あのね、ちょっとだけ! ちょっとだけでいいの! 私、ここに来られるって知らされてから、アンルシアちゃんと同じ年にまた出場できた記念として、お揃いのポーズの像を作りたいなーって思ってたの。ダメならダメでいいから──」
「いいえ、全然ダメじゃないわ。でも私、まだポーズが全然決まってなくて」
 アンルシアはつい、本当のことを言ってしまう。
 すると、メレアーデは親指を立てた。
「なら、私がアンルシアちゃんらしいポーズをプロデュースするわ!」
 救いの神がやって来た。
 アンルシアはイルーシャを振り返る。
 イルーシャは静かに微笑み、サムズアップしていた。
「アンルシアちゃんと言えば、戦いよね。戦うアンルシアちゃんの像はいくらあってもいいけど、異界滅神も倒したことだし、ここで新しい路線に挑戦してみてもいいんじゃないかしら。コンセプトは『これまでに見せてこなかった勇者姫』でどう?」
「こ、これまでに見せなかった私?」
「そう!」
 メレアーデは拳を握る。
「アンルシアちゃんは、みんなの勇者姫だもの。投票するみんなは、普段見せてくれる凛々しい顔がきっと大好きだと思うわ。でも、だからこそ、ファンはきっと『みんなの勇者姫じゃない勇者姫』も見たいはず!」
「メレアーデちゃん。司会から何か言われた?」
 あまりによく喋るので、アンルシアは聞いてみる。
 メレアーデはきょとんとする。
「ううん。何も?」
 何の前振りなしで、ここまで語れるのか。
「エテーネ村に猫ちゃんのお部屋を作ってから、ハウジングについて調べてみたの。家や部屋作りには、住む人や動物の生活、言い換えるならばストーリーが出るのよ。たとえば、猫ちゃんは自分の身体がちょうどよく収まるところが好きで、一人になれる場所を欲しがる。だから、猫ちゃんの部屋には、いろんな大きさの籠やベッドみたいなものを置いてあげる。暮らしぶりを意識しながら、私たちは部屋をコーディネートするじゃない?」
 言われてみれば、そうかもしれない。
 アンルシアの部屋にある、机一つと椅子二つのセットも、親しい人たちと語らうために置いたものだ。
「クイーンの像は、生活に直接は役立たないかもしれない。でも、他の家具と組み合わせると、ストーリーが生まれる。私達自身が持っているストーリーもある。持ち主の視点次第で、いろんなストーリーを連想して楽しめる像を作りましょう」
 というわけで。
 メレアーデは手を叩く。
「アンルシアちゃんは『みんなの勇者姫じゃない勇者姫の顔を教えてくれる』ポーズ、私は『ナイスなアンルシアちゃん像を思いついちゃった』ポーズで行くわよ」
「待ってメレアーデちゃん。発想に追いつけないわ」
「いいのいいの。まずは内緒話のポーズをしてみましょうね」
 内緒話。
 懐かしい言い方だ。
 昔、兄とままごと遊びをしていた時に、内緒話をしてくれとせがんだっけ。
 反射的に、アンルシアは人差し指を唇に当てた。
 メレアーデは口に両手を当てた。
「やだぁ。とっさにそのポーズが出るの、可愛い!」
「アンルシアらしくていいと思うわ」
 様子を見守っていたイルーシャも褒める。
「でも、どうしてマントを持ってるの?」
 問われて初めて、アンルシアは自分の左手がマントを広げ持っていたことに気づき、顔が熱くなる。
「あっ。その、これは……何でもないのよ」
 誤魔化したが、顔に動揺が出ていたらしい。
 メレアーデとイルーシャにせっつかれ、アンルシアは渋々昔話をする。
 兄との内緒話をする場所として、幼いアンルシアが好んだのが、カーテンの中だった。
 大きな布で作られた隙間は、大好きな兄との秘密の世界だった。
 さらに兄が、いつもカーテンを広げて持ち、狭すぎず広すぎない空間を作ってくれるのも好きだった。
 途中からアンルシアもカーテンを広げる癖がついて──その頃の名残が、左手に出ていたらしい。
「お願いだから、本当に内緒にしてね……」
「もちろんよ。でもその左手は採用しましょう」
「アンルシアらしくて、とてもいいと思うわ」
 メレアーデはガッツポーズをし、イルーシャは大きく頷く。
「じゃあ、今のポーズを基本にして、微調整するわよ。私が指示するから、アンルシアはその通りに動いてくれる?」
「うん」
「私は提出用の写真を撮るわ」
「ありがとう。まず、さっきのポーズを取って。ちゃんと、左手でマントを持って! 舞踏会のドレスみたいに! そう! で、左の太腿の位置はそのままで、つま先をちょっと外に動かして。えーと、そっちじゃないわ。こんな感じで──そうそう、いい感じよ。ちょっとウインクしてみてくれる? あ、いい。可愛いわ!」
 苦戦するアンルシア、喜ぶメレアーデ、写真を撮るイルーシャ。
 三人の盛り上がりにあてられたのか、他のクイーン候補者たちも持っていたカメラで思い思いに写真を撮り始める。
 アンルシアの撮影が終わり、メレアーデが彼女とお揃いのウインク閃きポーズを彫像デザイン案としてさっと仕上げる。
 その後、全員で城の様々な場所にて写真を撮った。
 その写真はフォトフレームに入れられて、バレンタインイベントの終わった今でも、アンルシアの部屋のカーテン裏に飾られている。










「──という次第で、妹さんは無事彫像を作ることができ、お友達もできたそうです」
 アストルティア五大陸にて不意に出没する、フォトフレームならぬ額縁の世界。
 幻想画と呼ばれるそこに入り込んだ盟友は、静かに遠くを見つめていた青年に対し、一方的に語りかけていた。
「こちらが、第十回アストルティア・クイーン総選挙の景品であるアンルシア像です」
 旅人は、道具袋から勇者姫の像を取り出して見せた。
 青年の優しげな瞳が、勇者姫の似姿を映す。
 兄妹で同じ瞳をしてるなあと、彼女は考えた。
「私はチケット交換所でこの像を見たと思ったら交換していました。何を言っているのか分からないと思われるかもしれませんが、私も私の衝動が分かりませんでした。頭がどうにかなりそうだったので、トーマ王子とこの思いを共有したく、ここまでやってきました」
 どうか、一つお言葉をいただけませんか。
 盟友は乞う。
 トーマは微笑み、口を開いた。
「五〇〇〇兆点」