魔幻宮殿考




DQⅩver2.0ラスボスこと大魔王マデサゴーラの創り上げたダンジョン「魔幻宮殿」について、その中に置かれた大魔王の作品「語り部」の台詞と十枚の大きな絵画をポイントに考察したいページです。






原作の記録

語り部たちの番号が若い順に従って、絵画の説明文も並べました。


【場所:女神の間】
■展示物説明文
 カゴの中に囚われた 鳥が描かれている。
(攻略後)
 窓辺から飛び立つ 鳥が描かれている。

 雷雲が覆う花畑で 漆黒の蝶が舞っている。
(攻略後)
 穏やかな花畑で 青い蝶が舞っている。

 茨に囲まれた妖精達が おびえているようだ。
(攻略後)
 妖精達が 楽しそうに飛び回っている。



■語り部たちの台詞

019 我らは 語り部。我らが創造主たる
  大魔王マデサゴーラ様の偉業を 知りたくば
  我らが作られし順に 耳をかたむけるがよい。
  大魔王様は 光の河の奥底より 出でしとき
  創世のチカラの破片を発見し 手中に収めた。
  偶然か それとも必然かは 定かではない。
  創生の渦こそ 大いなる創世のチカラの破片。
  だが カケラと言えど それは 大陸ひとつを
  想像するだけのチカラを 秘めていたのである。
039 大魔王様は 創生の渦のチカラを使い
  その心のおもむくまま もうひとつの
  レンダーシアを 創りあげた。
  人間が創作した物語を 再現させた村。
  死者の魂を引き止め つなぎ止めた町。
  魔物が人間に 人間が魔物になった王国。
  それらをながめ 楽しまれた大魔王様は
  次に 自らの創りあげた 偽りの世界で
  真の世界を塗りつぶすことに 乗り出される。
  そう。偉大なる 大魔王マデサゴーラ様は
  かの女神の創りし 大地を消し去り
  自らを 創世の大神たらんと欲されたのだ!
087 大魔王様はまず 冥王ネルゲルと契約を交わし
  ネルゲルが エテーネの民を滅ぼすチカラを
  貸し与えられた。
  そのチカラの代償として ネルゲルは
  レンダーシアを 迷いの霧の中に封じて
  五つの大陸と 隔絶した世界になさしめたのだ。
  かくして 大魔王様の創りだした世界で
  真のレンダーシアを 塗りつぶす準備が
  ととのえられたのである。
102 霧に包まれたレンダーシアの地では
  アストルティアから 切り離された影響ゆえか
  外の世界との 奇妙な時間的なズレが生まれた。
  だが そんなことよりも 真のレンダーシアに
  人間の種族神 グランゼニスの遺した
  神の緋石が存在することが 問題であった。
  神のチカラを宿した その緋石は
  真の世界を 偽りの世界で塗りつぶす計画の
  大きな障害となったのである。

154 大魔王様は 神の緋石を守る結界を破るには
  同じ神の力を源泉とする
  勇者のチカラが 必要だと見抜かれていた。
  勇者姫を手に入れるべく グランゼドーラ城に
  魔元帥ゼルドラド卿を 差し向けられたが
  惜しくも これを取り逃すこととなった。
  勇者姫の行方は ようとして知れず
  大魔王様は 代わりの勇者姫を創りだしたが
  勇者のチカラが宿ることは なかったのである。

218 大魔王様は 勇者のチカラを得るべく
  勇者姫の兄トーマを 創生のチカラによって
  よみがえらせ 利用することに決めた。
  トーマは かつての勇者が遺した指輪によって
  一時的に 勇者のチカラを宿し
  神の緋石のひとつを 見事に取り除いた。
  勇者姫と盟友の妨害を受け 残る3つの緋石は
  取り除けなかったが ソーラリア峡谷全域を
  偽りの世界で 塗りつぶすことができたのだ。
  だが それは 始まりにすぎない。
  すべての世界が 大魔王様の望む姿へ……。
  その時は すぐそこまで 近づいているのだ。


※絵画の敵三体攻略後

■展示物説明文
雷雲に覆われた空の下 鳥カゴに囚われた女神が
茨に囲まれ 苦悶の表情を浮かべている。
絵からは 得体の知れない
まがまがしさが ただよっている……。
絵の中に 飛び込みますか?


※囚われた女神の絵へ入ると魔幻宮殿上層へ





【場所:魔幻宮殿上層】

■語り部の台詞

433 創生の女神は 地の底に囚われ
  もはや そのチカラを振るうことはない。
  我らの主こそ 新たなる創生の神なり。
  らせんの階段を 上りし先は
  大魔王マデサゴーラ様のおわす 玉座の間。
  許可なく 近づく者は 死を覚悟せよ。





【場所:「自由の窓辺」の展示室[中層]】

■語り部の台詞

513 自由に空を飛び 生きてきた鳥は
  その自由を奪われたとき 何を思うのか?
  自由であることは すばらしいと
  多くの人間が クチにする。
  それが カゴの中の自由であるとは知らずに。

■展示物説明文

カゴの中に囚われた 鳥が描かれている。
絵からは 得体の知れないチカラが
あふれている……。
絵の中に 飛び込みますか?

■展示物内へ移動

鳥が舞っていてカゴが落ちてくる演出の後、ワイルドフォビズムが現れる。




【場所:「楽園」の展示室[下層]】

■語り部の台詞

560 蝶は生きるために 花の蜜を求め
  花は子孫を増やすために 蝶へ蜜を与える。
  それを 共生関係と呼ぶらしい。
  だが その片割れが 失われたとき
  残された者は 深き絶望の底に沈むであろう。
  しょせんは 弱者の馴れ合いに過ぎぬのだ。


■展示物説明文

雷雲が覆う花畑で 漆黒の蝶が舞っている。
絵からは 得体の知れないチカラが
あふれている……。
絵の中に 飛び込みますか?

■展示物内へ移動

蝶が舞っていて稲妻が走る演出の後、エビルキュビズムが現れる。




【場所:「森の秘密」の展示室[下層]】

■語り部の台詞

617 浅はかな妖精どもは 踊りに熱狂し
  価値ある 夜の静寂を台無しにする。
  無秩序な振る舞いに 制裁を。
  我が思考を妨げる者に 災いあれ。

■展示物説明文

茨に囲まれた妖精達が おびえているようだ。
絵からは 得体の知れないチカラが
あふれている……。
絵の中に 飛び込みますか?

■展示物内へ移動

妖精が舞っていて茨が這う演出の後、ダークレアリズムが現れる。




【場所:「静寂の窓辺」の展示室[下層]】

■展示物説明文

鳥の羽が舞う 窓辺で
猫が こちらを見つめている。

■語り部の台詞

666 虚空を見つめ 動かぬ獣。
  人間は その視線の先に 何があるのか
  不安に感じることが あるという。
  まったく おろかなことだ。
  真に危険な存在が 獣自身であることに
  気づけないとは。




【場所:「閉塞の窓辺」の展示室[下層]】

■展示物説明文

閉ざされた 赤い窓の向こうから
無数の目が のぞいている。

■語り部の台詞

741 我らが主こそは 世界を創造せし者。
  その目は すべてを見通している。
  何も隠すことなど できはしない。




【場所:「辺獄」の展示室[中層]】

■展示物説明文

宙に浮かぶ灯ろうが 天を覆い尽くしている。

■語り部の台詞

794 強く まぶしい光に 恐怖を覚える人間も
  はかなく 淡い光には 安らぎを感じるという。
  どちらもが その身を焦がす
  灼熱の閃光であることを 知らぬままに。




【場所:「此岸」の展示室[中層]】

■展示物説明文

荒野に 無数の墓標が立っている。

■語り部の台詞

832 人間は 死者を弔い 墓とやらを建て
  花を手向けるという。
  なぜ そのようなことをするのであろうか?
  死者とは すなわち 敗者である。
  そのような者に 思いを馳せる必要はない。




【場所:「森の番人」の展示室[中層]】

■展示物説明文

木の葉の間から クモの巣が見えている。
巣には 小さな羽が かかっているようだ。

■語り部の台詞

876 妖精たちは 気の向くままに 空を舞い
  自由を 楽しむことができるだろう。
  だが 自由は つねに対価を求める。
  行く先に待つ地獄を 避けるすべはない。




【場所:「森の神性」の展示室[下層]】

■展示物説明文

複雑にからみ合ったヘビが
こちら側を 見つめている。

■語り部の台詞

899 からみ合うヘビたちの 不規則かつ
  不自然な姿こそ 混沌の象徴に ふさわしい。
  世界は かのように
  純然たる混沌に 満たされるべきなのだ。






考察テーマ
「016の言う大魔王マデサゴーラの偉業とは何か」

創生番号016の言うとおりならば、魔幻宮殿は大魔王マデサゴーラのことが分かる場所のはずです。
マデサゴーラの作品である「語り部」と、語り部のついている大きな絵画十枚をヒントに、大魔王マデサゴーラ自身の考える「偉業」の内容について考えます。

まず語り部の語ることを番号順に並べ替えます。
魔幻宮殿上層にいる433の語り部は現在のマデサゴーラに繋がる道にいます。
ですので、433を境としてそれより番号の小さいものが過去から現在に至るまでのマデサゴーラの所業を語っており、433より番号の大きいものがマデサゴーラが成し遂げたい内容を語っているものと私は考えました。

女神の間の語り部たちは大魔王がこの世界にやってきたことから現時点までにしてきたことを語ります。
女神の間の四方には絵画が飾られています。北側に微笑む女神の絵。残り三方に「自由の窓辺」の絵、「楽園」の絵、「森の秘密」の絵があります。
私はこの部屋は女神ルティアナが創造した世界、周辺の展示室は女神を転覆させて創りたい大魔王の世界をあらわしているものと考えました。理由は、女神の間の四枚の絵画の配置がレンダーシア大陸の主要四都市の場所と一致しており、展示室の配置はちょうどレンダーシアの地図を南北逆にひっくり返した形になっているからです。

次に展示室の絵について語ります。
展示室の九枚の絵はタイトルに共通項があり、分けると大きく三つのシリーズに分類できます。
「自由の窓辺」「静寂の窓辺」「閉塞の窓辺」の窓辺シリーズ。
「楽園」「辺獄」「此岸」の生死シリーズ。
「森の秘密」「森の番人」「森の神性」の森シリーズ。
全てを単純に語り手の番号順で捉え、比喩も何もなく大魔王の思想であるとすることもできますが、今回はこれを大魔王の望むこれからのレンダーシア像として解釈してみます。
この三つのシリーズは、レンダーシアの三つの地域に由来します。
窓辺シリーズはメルサンディ村。生死シリーズはセレドの町。森シリーズはアラハギーロ王国。
飛べるものはだいたい魂の暗喩です。つまり、どの絵も最初は魂が囚われている状態をあらわします。

「窓辺」シリーズが窓辺を描いている理由は、メルサンディ村の英雄ザンクローネの物語が生まれるきっかけとなった病弱なアイリの境遇をモデルにしているからではないでしょうか。
一枚目の「自由の~」に描かれている鳥は魂そのものというより、人間の自我や意思。もしくは想像力かもしれません。この自由の絵に入って現れる魔物ワイルドフォビズムのフォビズムとは、心の感覚を重視した絵画運動のことです。フォビズムの絵画の激しい色使いを見た評論家が「野獣(fauves)の檻の中にいるようだ」と言ったことからこの名がつけられました。フォビズムの指導者は形式の枠の外で物事を考えるべしと唱えたそうな。つまり、ワイルドフォビズム攻略後に窓辺から飛び立つ鳥の絵は、最初囚われていた人間の魂が何かの檻から解き放たれることを示します。
次の番号の語り手がいる「静寂の~」では開け放たれた窓の内側に猫がいて、鳥が姿を消しています。鳥が猫に食われたのか逃げたのかは分かりませんが、猫が鳥に勝ったということは確かでしょう。獣が見つめる先より獣自身が脅威であるという語り手の言葉は、怪物達を生み出した英雄ザンクローネを思い出させます。己の中の意思を野性が上回るということでしょうか。
最後の一枚「閉塞の~」は、たくさんの鋭い目つきが閉ざされた窓の外にいます。「大魔王は人間の心を全て見透している」と語り手は言います。
以上三枚に描かれた大魔王の望みとは、魂の解放、野性をさらけ出せということです。

生死シリーズはセレドの町の亡くなった子供達と遺族の関係性。
一枚目「楽園」に描かれるものを語り部の言葉をヒントとして考えると、蝶は蜜を求めるので食事や愛情を求める子供達、花は子孫を求めるので大人達でしょう。最初絵の空が暗くて蝶が黒いのは、子供達が死んで町が悲しみに満ちているから。エビルキュビズムを倒すと空が晴れ、蝶は青くなります。子供達は幸福の楽園ことネバーランドに辿り着いたってことです。
キュビズムというのは一枚の絵に色んな角度から見た姿を取り入れた絵画運動のことです。初期のピカソが属していました。先程のフォビズムとほぼ同時期に出たもので、フォビズムは色彩の革命と言われ、キュビズムは形態の革命と呼ばれました。
二枚目「辺獄」。辺獄とはカトリックにおいて洗礼を受ける前に死んだ子供や、信仰を誓っていない人々が行き着く死後の世界です。閃光は大魔王の勢力をあらわすのでしょうか。
最後の一枚のタイトル「此岸」とは生者の世界のこと。整備された墓地ではなく荒れた土地に墓があるのは、語り部の言葉通り生者こそ全てという考えのあらわれです。
三枚通して、大魔王の庇護のもとに強き者のみ生き残れと私は読みました。

「森」シリーズの解釈には迷いました。
森はアラハギーロのことです。森というのは人間に恩恵を与える反面、魔女や異形の者が住む異界的な性格を持つ場所でもあります。砂漠の面積が広いためあまりしっくりこないかも知れませんが、性質としては魔物が共存するアラハギーロにぴったりです。
一枚目「~の秘密」で熱狂する妖精のあらわすものには迷いました。妖精はおそらく、アラハギーロの魔物のことを指すのでしょう。踊りはモンスター格闘場のことでしょうか。語り部の言い回しから考えるに、大魔王はモンスター格闘場が好きではなさそうです。この絵画に入ると、ダークレアリスムが出てきます。ありのままのものを描くという写実主義をあらわすという理解で良いのでしょうか。先程の二つの芸術運動から急に過去に遡ったのが気になりますが、置いておきます。ダークレアリスムを倒すと、茨が引いて妖精達が自由になります。この茨は、戦争が一度止み人間がいなくなって、人間になった魔物達が自由になったことを示します。
次の「~の番人」では自由に生きる偽アラハギーロの民を示します。語り手の言う地獄とは? ベルムトの死だと私は考えました。
最後「~の神性」は指導者を失って途方に暮れ、自分たちが何者かも分からない偽アラハギーロの民のことでしょうか。この混沌とした状態が、大魔王はお好きだそうです。
三枚通して、世界は導きなき混沌であれと私は読みました。



全ての絵画の魔物を倒し、絵が明るい雰囲気になると、今度は女神の間の微笑んでいた女神の絵が、立ちこめる雷雲を背景に、鳥カゴに囚われ、茨に覆われ、苦しんでいる表情に変わります。これは大魔王の目的が成し遂げられ、女神ルティアナの世界を塗り潰しつつあることをあらわします。
そしてこの女神の絵を抜けて勇者達が玉座へ向かう頃、大魔王はまさに世界を塗り潰すべく、創生の霊核を求めて奈落へ向かっているのです。



よって魔幻宮殿に示された大魔王マデサゴーラの「偉業」とは、創世の女神が創りだしたレンダーシアを塗りつぶし、強き野性が群雄割拠する混沌の世界を創りだすことではないかと私は考えました。

お付き合いありがとうございました。




20200614