突撃!未知の仲良しさん






 ある日、イレブンさんが言った。
「不死鳥パーティーのみんなには、相棒っているの?」
 それはちょうど晩飯をみんなで食っていたタイミングだった。
 俺たちは十四人の大所帯だから、食事の時はたいていそれぞれが好き勝手に喋ってる。
 二人くらいのペアで話していたかと思えば、気づけば全員で同じ話題について話していることもざらだ。逆ももちろんある。
 その時は、俺が端の席に座っていて、隣にはイレブンさんしかいなかった。
 新入りの隣はアベルで、ちょうど反対側に座ってるアルスとモンスターパークの話で盛り上がってた。周りの連中も話題にのっている。
 だから、俺しか聞く相手がいなかったんだろう。
「あー。いるんじゃないですかね」
「アレンの相棒は、誰?」
 聞き返されて、ちょっと考えた。
 相棒。よく一緒に何かする奴。
 なんとなく、息が合う相手というイメージもある。
 すぐに思いついた。
「俺のところの世界の奴です。まだ、アンタは会ったことないと思います」
「旅の仲間?」
「はい。たまにここにも来ますよ」
 魔王を倒したチームのリーダーみたいな奴らが集まるこのパーティーに、なぜか俺は俺の世界の代表みたいな感じでよく参加している。
 でも俺は、全てにおいてリーダーなんかじゃなかった。
 スタミナが取り柄の俺が生き残る確率が高かったからチームの先頭に立ってただけ。
 あとは、この不死鳥パーティーでのクエストに一番向いてそうなのが俺だったから、ここにいるだけだ。
 俺たちのチームは、誰が率いるとかついていくとか、なかった。三人で一つだった。
 だから、よく他の二人もここに来る。
 そのうち、相棒と言われたらどちらになるかは、決まっている。
「アーサーっていいます。見かけたら話しかけてやってください。のんびりしてて、人あたりもいいです」
(そう。俺以外にはな)
 アーサーは、俺限定で口がキツい。
 旅を始めた最初の頃はそうじゃなかった気がする。そのあたりのことはもう覚えていない。
 でもあんまり遠慮されるよりは、ずけずけ言われた方が俺はいい。
「そうか。アレンも、相棒は自分の世界の仲間なんだね」
 イレブンさんは微笑んだ。
 この人の相棒の話は、何回か聞いたことがある。
「イレブンさんは、カミュさんでしたっけ」
「そう。仲間はみんな大事だよ。誰ともいつでも連携技を使えるくらい、仲もいい。でも、相棒はカミュだよ」
 イレブンさんは、よくカミュという人の話をする。
 何度も窮地を救い、苦しい時にそばにいてくれた恩人なのだとか。
「で、なんでこのパーティーメンバーの相棒のことを聞きたいんです?」
 俺が尋ねると、イレブンさんはちらりと周りの様子をうかがってから、俺に小さく手招きをした。
 顔を寄せてみる。彼は耳元に手を寄せて、囁いた。
「みんなの本来の世界のパーティーじゃなくて、この止まり木の世界のパーティー内で、決まったコンビみたいな人たちっているのかなと思って」
「何でですか」
「世界を超えた相手同士でも、そういう関係になれるのかなって気になったんだ」
 戦闘での連携だけじゃなくて、純粋にどこまで仲良くなれるのか気になる。
 イレブンさんはそう言った。
「一人一人に聞いてみてもいいんじゃないですか?」
「ぼ、ボクは新入りだから。急に話す内容としてはちょっと、恥ずかしいよ」
 白い頬は少し紅潮していた。
(ずるいな)
 そういう彼の姿を見て、その優男ぶりを噛み締める。
 もっとも、遠目に見た時はそう感じない。田舎出の朴訥とした、垢ぬけない青年に見える。
 しかし近づいて見ると、髪の淡い色合いの髪の絹のような繊細さや、半月の形をした瞳の透き通るような青さや、痘痕の一つもない健やかな肌に気づく。
 途端、田舎出の垢ぬけない青年は、「これまで俗世に汚されたことのない、外見心根ともに清らかな青年」へと印象を変える。
 それで、なんとなく無下にできなくなってしまう。
 他の止まり木の面子が、この人と同じことを言ったなら、「本当に知りたいなら覚悟を決めて行ってこい」と返すところだ。
 だが、相手がこの人だと言えない。ちょっとくらいなら助けてもいいかという気分になってしまう。
「そうですねー」
 俺は腕組みをした。
「みんな、仲はいいと思いますよ。でも特に仲が良くて相棒みたいに一緒にいるみたいな、そういうのは、俺もずっと全員を見てるわけじゃないんで、全部知ってるわけじゃないです」
「知ってる範囲でいいから」
「うーん」
 さらに考えこみながら、俺は食卓を囲む面子を眺める。
 みんな旅慣れてるだけあって、誰とでも仲良くできるから、特別に気を許し合っている奴らを見分けるのは難しい。
 たとえば今話題の中心になっている一人であるアベルは、特別だ。
 アベルは誰とでも打ちとける。誰と接している時も、壁を感じさせず、粗末に扱われているという印象を抱かせない。あの人と話していると、不思議と心の内を話してもいいような気になってしまう。俗にいう人たらしという奴なのだろう。
 その一方で、このパーティーの特定の誰かと行動を共にする様子は見られない。強いて言うならば、互いの出身世界が過去と未来の関係性にあるらしいソロやソフィア、レックなどと話していることが多い気がする。
 その向かいで話すアルスも打ちとけやすい奴だ。俺も含めて、みんなよく話しかける。決まった誰かとずっと一緒にいるかどうかまでは知らない。
(アレフさんはコミュニケーションそのものが下手。俺は結構適当に過ごしてる。サタルさんは口から生まれた人で、サンドラさんはあんまり話す方じゃねえ。ソロとソフィアとレック、エイトも誰とでも絡む。だからと言ってナインとノインが決まった面子としか話さねえわけじゃねえ。むしろあいつらこそ、誰とでも分け隔てなく話すよな)
 俺はしばらく唸る。
 唸ってみたが、時間が流れていくだけだった。
「すいません。俺、やっぱりよく分からなくて──」
「なんでそこで、あたしたちに話を振らないの!」
 突然向かいから声が飛んできた。
 わっ、と声を上げて、俺は正面に向き直った。ソフィアとサンドラさんがこちらを見つめていた。
「聞こえてたんですか?」
「全部ではないけど、だいたい察しはつくわよ」
 サンドラさんが言う。
 ソフィアが片目をつぶる。
「こういう時はあたしたちみたいな女子会に話を聞くもんよ。あたしたちほど、クエストの外のどうでもいいところでもみんなの関係をよく見てるメンバー、いないと思うよ」
「いるにはいるでしょうけど、ソフィアほど語りたがる人はいないでしょうね」
「アレンはどうせ、戦闘のことばっかりよく見てて、他はどうでもいいって感じだったんでしょ」
「そういうもんだろ」
 否定はできない。
 ソフィアは溜息をつき、立ち上がった。
「二人とも、食べ終わってるよね? じゃあ、行こうよ」
「どこに?」
 イレブンさんが聞く。
 ソフィアは親指を突き立てた。
「サンドラの部屋」
「そこは普通、あなたの部屋じゃないの?」
「だって、あたしの部屋汚いもん。サンドラの部屋なら、すぐ人呼べるくらいに綺麗でしょ」
「綺麗っていうか、荷物が少ないからものがないの」
 まあいいか、とサンドラはこぼして、俺たちを見た。
「来る?」
「うん!」
 イレブンが嬉しそうに頷いた。
 俺たちは自分たちの食器を片付けて、食堂を出た。
 なんだかもう既に、一ペア見つけたような気がしていた。












20210528