侵・何ニ転生




※Ⅹの旅立ち、物語の舞台に関するネタバレ有。


































 エックスとミーナの後を、変わったぬいぐるみがついて歩いているのを見た。目はボタン、肌は布。どちらもヒトのように二足歩行をしているが、人間のぬいぐるみではない。
 エックスについているのは、魚のような耳ヒレを持つ、青いぬいぐるみ。ミーナについているのは、丸っこくて大きな耳を持つ、緑のぬいぐるみ。
 ここへ来たばかりの頃は、どちらも見かけなかったものだった。なので、とても気になっている。
 今日は、エックスが川べりで魚を釣っている横に、人形がいた。彼が一匹釣り上げる度に、魚を受け取り、水を張った桶に入れている。とても器用な動きをできる手先に見えないが、跳ねる魚を桶に入れる仕草は、ソツのないものだった。
 作業が一区切りしたところを見計らい、僕は声を掛けた。
「ねえ」
 一人と一体は同時に振り返った。
 僕は転ばないよう、凸凹とした石に気を付けながら、彼らへ歩み寄りつつ、聞いた。
「釣り、好きなの?」
「そこそこかな」
 エックスは手にした青い釣竿を撫でた。
「オレの世界には、釣りを頑張ると報酬をくれる、変わったおっさんがいてな。このおっさんのくれる報酬が、冒険者の熟練度に関わらず、結構デカくて」
 旅の資金稼ぎのために釣りをしていたら、いつの間にか習慣になっていた。
 エックスはそのようなことを語った。
 僕は彼の話を聞きながら、目の端でぬいぐるみを観察していた。それは、確かに僕の方を見ていた。生物のディテールを削ぎ落した、ボタンの目がついているだけのデフォルメ顔だが、不思議とこちらへ意識を向けているのが分かる首の角度をしている。
「そうなんだ。ここには魚釣りに関心を持つ人があまりいないから、嬉しいな」
 僕はさり気なく、ぬいぐるみへ目を向けた。
「そのぬいぐるみ、すごいね。動いてる」
「ん?」
 エックスは目を丸くした。
「知らないのか?」
「何が」
「ぬいぐるみは、ナイン達が用意してくれた依り代。コイツは、ちゃんと生きてるんだ」
「え?」
 僕はそれをまじまじと見つめた。
 それは、口を動かした。
「はじめまして」
 口腔を表す赤い布時から発せられたのは、僕の知らない誰かの肉声だった。
 ぬいぐるみは、エークスと名乗った。
「アストルティアの種族を見るのは、初めてだよね。僕はそのうちの、ウェディという種族の一人だよ」
 ウェディは側頭部と背中に魚のヒレを持つ魚人だ。その知識は、僕も持っていた。アストルティアという世界の話をナイン達から初めて聞いた時に、図書室に置かれた図鑑を見に行って知ったのだ。
 アストルティアには、様々な種類の生物が住むという。その中に、独自の文化を持ち、別の大陸に住みながらも、固い結束で結ばれている五つの種族がいた。
 険しい荒野で暮らす炎の民、オーガ族。
 海を渡り島で暮らす水の民、ウェディ族。
 標高高き大陸で暮らす風の民、エルフ族。
 火山猛る大陸で暮らす地の民、ドワーフ族。
 愛らしい草花の中で暮らす花の民、プクリポ族。
 その外見は、僕の世界ではほとんど見かけないものだった。オーガのツノの生えた筋骨逞しい巨躯も、ウェディの魚らしいしなやかな体躯も、プクリポの綿毛の擬人化じみた二頭身も、見たことがない。強いて言うならば、エルフの可憐で小柄な容姿がクレージュで見かけた少女に似ており、ドワーフのずんぐりとした体型がコスタールのホビット達に似ていたくらいか。どっちも、肌の色が違ったけれど。
 僕はエークスの目線に近づこうと──あわよくばもっと近くで様子を見ようと──しゃがみこんだ。
「ウェナ諸島、だっけ」
「そうだよ。よく知っているね。僕らウェディが集まって暮らしている地域の名前」
 ぬいぐるみは笑った。
「僕の種族が気になる? 変身してあげようか」
 そんなに、好奇心に満ちた目をしていただろうか。
 ぎくりとする僕をよそに、エークスはエックスを振り返った。
「エックス。交代」
「はいよ」
 エックスがぬいぐるみの傍へしゃがんだ。彼を掴み、自身の左腕に乗せる。綿の詰まった腕が、ぎゅっと眼前の上腕を抱きしめた。
 僕は目を瞠った。
 みるみるうちに、人間とぬいぐるみの輪郭がぼやけていく。エックスの日焼けした筋肉質な肌が霞み、細くもしっかりとした筋骨を持つ、青みがかった肌が現れる。一方ぬいぐるみは、青みが失せて見覚えのある肌色に変化し、髪が茶に染まっていく。
 目をこする。目の前にいた青年とぬいぐるみが、まるっきり変わっていた。そこには、見たことのない異種族の青年がしゃがみ、見覚えのあるヒト型のぬいぐるみが腕にしがみついていた。
 異種族の青年──エークスは立ち上がるなり、僕をハグした。
「やあ、アルス。こうして挨拶の機会に恵まれて、嬉しいよ」
 頬に触れる胸板には、人より少しだけ魚に近い、吸い付くような滑らかさがある。
 その肌から、ライムに似た爽やかな香りがした。加えて、隠しきれない潮の気配。
 海に近い者は、どうしてもその地の海風を纏う。僕は海と暮らす人間だから、その香りには敏感なのだった。
(ハレの海の匂いだ)
 暖かく、カラッとして風通しのいい海が想像できた。きっと砂浜は、貝殻と見分けがつかないような白さだろう。遠洋には、サンゴ礁がのびのびと生育しているはずだ。
 それにしても、何でこうもみんな身長が高いんだろう。
 僕はひっそりと溜め息を押し殺した。
「色んな海の匂いがする」
 エークスも僕と同じで、海の感性を持つらしい。
 僕の旋毛辺りに鼻を埋め、言った。
「七色の水の匂い。滋養のある素敵な海だね」
 抱きしめていた腕が緩む。僕は近くにある顔を観察した。
 上半身と下半身で種の別れる人魚とは、全く違う。全身に等しく魚と人の属性が混ざっている。髪は人と似た毛質。顔の両脇のヒレと、背中のヒレが一番魚らしい。その他は、顔から爪先まで青磁に似た艶やかな肌に覆われている以外、案外僕らと変わらない造形をしていた。
 エークスは、僕を見つめ返して微笑んだ。垂れがちの目に宿る虹彩は、彼が人形だった時のボタンと同じ、紫色をしていた。細面で、緩く弧を描く唇の端がきゅっと吊り上がっており、愛嬌がある。
(彼らの規準は分からないけれど。多分これは、美形なんだろうな)
 そんな想像をする。
「僕の顔に、何かついてるかな」
 声は、エックスより低くて落ち着きがある。歌ったら、よく響くだろう。
 僕はそこで、はっと我に返った。
 見つめすぎた。
「ごめんなさい」
 仕出かした羞恥で頬が熱くなる。
 エークスは微笑んだ。
「気にしないで。僕の顔は両親の最高傑作で、みんなの財産だからね」
(ん? コイツ、やかましい系か?)
 僕が疑問を抱いた時だった。
 突如、背後から物々しい気配が膨れ上がるのを感じた。
 僕はエークスから離れ、咄嗟に右へ逃れた。エークスは、後ろへ倒れ込むようにして跳躍する。
 次の瞬間、僕らのいた位置に緑のぬいぐるみが飛び込んできた。
「どっ、せーいッ」
 それは間の抜けた一声と共に、手にしたピコピコハンマーで地面を叩いた。
 重い衝撃。大地が震え、川べりの石がすべて飛び上がる。
 空を見上げた僕は、近くの木々から鳥達が飛び立つのを見た。
「あれ。外したか」
 緑の人形は、きょときょとと黄色いボタンの目を辺りに配っている。
 あれは、ミーナのぬいぐるみだ。
(もしかして、あの子も)
 僕が話しかけようとした時、向こうからミーナが走ってくるのが見えた。
「ミニャ!」
 彼女は焦っている風だった。
「まだナンパって決まったわけじゃないんだから、早まらないで」
「ちょっと遅かったね」
 エークスがへらりと笑い、ミーナに手を振った。







 世にも珍しい、人間と動くぬいぐるみのコンビが誕生した経緯は、こうだ。
 彼らはそもそも別の地で生きる、名前が同じだけの他人だった。それが、同日に死んでしまった。
 人間の方は、魔と戦う使命を負うために、人間を守る神獣によって蘇生のチャンスを与えられた。だがその蘇生方法とは、同日に死んだ異種族の若者の身体に、魂を仮縫いするというものだった。
 この時に、エックスはウェディのエークスを、ミーナはドワーフのミニャを選んだ。
 こうして、奇妙な共生関係が始まった。同じ日に死んだ彼らは、薄れた互いの存在を、一つに重ねて継ぎ合わせることで生き延びた。この時に、魂も肉体もつかず離れずで生きるのが当然の状態になってしまったらしい。ナインとノインの力を借りてでき上がった、依り代のぬいぐるみを手にするまで、交互に身体を使って意思疎通をするという、肉体アパート霊魂シェアハウス状態だったのだという。
 今は状況に応じて、片方が肉体を、もう片方がぬいぐるみを、と交互に使い分けている。
 そのような話を、皆で一緒に釣りをしながら聞いた。
 皆で一緒にと言っても、五人とも釣竿を使うわけじゃない。僕とエークス、ミニャが釣り糸を垂れ、エックスとミーナがその補助をするっていう形だ。
 ミーナとミニャの入れ替わりも、エックス達がしたのと似たような形で行われた。本来の姿を現したミニャは、ドワーフの女性だった。図鑑で見たドワーフ族と違わず、人間の幼児を少し拡大したような頭身をしている。けれど、睫毛のぱっちりとした瞳を見つめ、快活なお喋りを聞いていると、れっきとした成人なのだと思わされた。
「ついてクンっていう錬金人形が、あたし達の世界にはいてね。これが、何も指示しなくても持ち主の周りをちょろちょろついて回るっていう、よくできた人形なんだよ。あたし達の依り代は、これをモデルにしてるんだわ」
 ミニャは、現在ミーナの依り代になっているぬいぐるみを指し示して、そう説明した。
「小っちゃいけれど、性能はばっちり。戦闘もできるよ」
 それは、つい先ほどの様子を見て理解した。
 僕は首を傾げる。
「さっき、何でエークスを殴ろうとしたの?」
「殴ったんじゃないわ。あれはじゃれ合いさね」
 そんな馬鹿な。
 僕はエークスを見る。彼は笑顔で頷いた。
「そうそう。じゃれ合い」
 ええ?
 僕が戸惑う間に、エックスが話しかけてきた。
「ここにいる人達に、たまに聞いてるんだけど。アルスの世界も、人間が多いのか?」
「うん、そうだね」
「オレも、旅立つ前は他の種族に全く会ったことがなかったんだ」
 エックスは、布の顔をぱくぱくと動かしている。
「それが今は、すっかり慣れちまって。周りが人間ばっかりだと、落ち着かなくないようになったよ」
「そうね。いろんな種族が混ざっている環境が、当たり前になった」
 ミーナも同意する。
「ここへやって来る前だって、ヒトじゃない戦士がいると思っていたのよ。なのに、皆ヒト型で驚いたわ」
「中身はちょっと違うのが多いけどね」
 生まれてから今日まで、何でもない人間でい続けているのは、僕くらいなんじゃないだろうか。僕だって、胎児の時にタイムスリップしたという変わった経歴は持っているけれど、複数の世界を跨ぐ勇者の血族とか、天空人の血筋とか、竜とか、ああいうのと比べたら、まあ起こりうる出来事なんじゃないかな、という気がしてしまう。苦労して僕を産もうとしてくれた二人の母親からしたら、決してそんなことはないんだけどね。
 僕の言葉を聞いて、エックスが顎に手を当てた。
「ああ、そうだった。ここの面子って、結構個性的だよな」
「そうそう」
「もしアストルティアにいたら、オレ達よりよっぽど、他の種族と馴染めたかも」
 アストルティアか。
 僕は、空を仰いだ。
「行けるものなら、行ってみたいんだけどなあ」
「駄目らしいよね」
 ミーナが言うのに、頷く。
「そうなんだ。何か、均衡がどうとかいう話でね」
「うーん。残念だけど、ちょっと分かる」
 彼女はさもありなんと言いたげな顔になった。
「何となく想像できるもの」
「そう?」
「ねえ、アルス」
 突然エークスが口を開いた。
「アルスは、アストルティアの五種族のうち、どの種種族が自分に合うと思う?」
 僕は目を丸くする。
「え、何で?」
「いつか君も、アストルティアに行けるようになるかもしれないでしょ。そうなったら、君の趣味が合いそうな種族の大陸を案内してあげようかと思って」
「お、いいじゃん」
 ミニャが白い歯を見せた。
「聞かせておくれよ。興味ある」
「急に言われてもなあ」
 僕は首を捻る。
「実際に会ったことがないし、難しいよ」
「いや、そんなことはないさ。僕達五種族は、民族のアイデンティティみたいな……いや、価値観っていうの? それがはっきりしているから、きっと分かりやすいよ」
 エークスは、歌うように言う。
「オーガは力を尊び、ウェディは愛を重んじる。エルフは知恵を、ドワーフは欲を、プクリポは笑いを追い求める。ざっとこんなところだね」
「本当に?」
「うん。大枠は一緒さね」
 ミニャが付け足す。
「一人一人に、細かい趣味の違いはあるけれど。大雑把なところは一緒だよ」
「へえ」
 そう言われると、言ってみようかなという気になってくる。
 僕は俄然わくわくし始めた。
 実のところ、アストルティア五種族については、これまで散々調べて考えてきたのだ。
 自分の調べた内容や、そこから育んだ想像を、現実にその地で生きる人々と話して擦り合わせることが許される。願ってもない機会だった。
「僕はきっと、ドワーフに合うんじゃないかと思うんだ」
 言うと、ミーナがへえと相槌を打った。
「アルスって、調査が好きで物知りだよね。でも、エルフじゃないんだ」
「エルフに合うのは、ナインやノインみたいなタイプじゃないかな」
 エルフという種族は、知性を磨き、調和を大切にする民らしい。
 僕は、自分の好奇心に従ってどこまでも突き進んでしまう癖がある。人並みの倫理観は備えているつもりではあるけれど、それでも本来の性分は協調に程遠い。そんな気がしている。
 その点、あの二人はエキセントリックだけど、世界を守るという本分は決して忘れない。物事をとことん突き詰めながらも、たまに一歩引いて立ち止まれる彼らのような人が、エルフに向いてるんじゃないかと思われた。
「うん。そういうことなら、この世界にいる面子の中では一番ドワーフっぽいかもね」
 ミーナは僕の言うことに納得したようだ。
 次いで、ミニャも言う。
「実はあたしも、ちょっとだけそんな気がしてたんだ」
 ドワーフは技の種族とも呼ばれていてね。
 そう、彼女は話を続けた。
「自分の拘ることをとことん追い続けるから、何かの技に長けることが多い。そこに、世界の色々なものとの繋がりは必ずしも必要じゃないし、他人様の心を動かすことを望んでるわけでもない。よく言えば職人気質、悪く言えば独り善がりになりがちな民族さね」
 ミニャは小さな掌を、アルスの方へ向けた。
「アンタのマイペースさは、うちの種族によく似てるよ。移住してもうまくやっていけそうだ」
「なるほどね」
 エークスが言う。
 彼は今まさに、釣竿を介して水面下と一進一退の駆け引きをしているところだったが、耳はこちらへ向けていたようだ。
「たとえ君がドワチャッカ大陸を気に入ったとしても、ウェナ諸島にも遊びに来てよね。僕が案内するからさ」
「うん」
 彼が魚を引き上げるのを見届けてから、僕は訊ねた。
「ウェディに合ってる人はいた?」
「もちろん」
 そう言いながらエークスは、釣り上げた獲物を見て呟いた。
「あれ。稚魚だ」
 彼はさっさと小さな魚を川へ放る。
 そうして、元の話を続けた。
「誰だって可能性はあるよ。誰かのために戦いたいと思う時があるなら、僕らは皆、心の兄弟さ。でも、そうだね。強いて挙げるなら、ソロはウェディで間違いない」
「何で?」
「彼は根っこが情け深いから」
 エークスは笑みを浮かべた。
「口が悪くて、すぐに自分の損得の話をすることもあるけどね。彼は普段とことん合理性で動くけれど、それは、エゴや感傷に振り回されず、お互いを大事にしながら、他人ときちんと共生するため。ソロは、いざという時は情けをかけちゃう人間だよ」
「言えてるかも」
 これまでのソロを思い返してみると、その通りな気がする。シビアな物言いをすることが多いから、情けとは一番遠そうなイメージがあるけれど、クエストの時に彼が提案する作戦や意見は、いつだって誰に対しても無理がない。温かい感情すら時として笑い飛ばすソロの合理性は、彼なりの他者への思いやりなのかもしれなかった。
 僕はエークスを見上げた。
「あまり接したことがないだろうに、よくそこまで分かったね」
「まあ。彼、目を引くからね」
「あれ。顔の話してる?」
 エークスの目が、僕の後ろへ据えられる。
 僕は振り向いた。隣に座るミニャが、物言いたげに口をもにょもにょさせていた。
「何?」
「あのさ、エークス。何度でも言うけど、ソロってアンタの──」
「そうだけど。それだけじゃないから」
 エークスがやんわりと否定すると、ミニャは唇を尖らせる。
 話が見えない。
「何の話?」
「何でもないよ」
 エークスは話を広げる。
「他には、サタルやエイトあたりもウェディの気性に合いそうだね。サタルの女性賛美や、エイトの愛妻家なところは、ウェディの男に合ってると思う」
「へえ」
「……この話を聞いてると、つくづくオレってウェディっぽくないと思わされるな」
 エックスが苦笑いみたいな口ぶりで言った。
 そう言えば、彼は魔王に殺された後、同じ日に死んだウェディの身体──エークスのことだ──を借りて、生き返ることを選んだんだっけ。
「君だって、立派にウェディっぽいところがあるよ」
 エークスがエックスに言う。ぬいぐるみの丸い頭が、僅かに傾いた。
「どこが?」
「情に流されて、すぐにこなせないほどのクエストを軽々しく引き受けるところ。少しはソロの客観性を見習ってほしいな」
「皆のことは褒めたのに、オレだけダメ出しかよ!」
 エックスは、ぴょこぴょこ跳ねている。
 エークスは彼の頭をなだめるように撫でながら、いつもジェットコースターみたいな旅に付き合ってる僕の身にもなってよと窘める。
 僕は彼らを眺めながら、頭はもう他の三種族のことを考えていた。
「あとは、オーガ、エルフ、プクリポだよね」
「あたしは、この世界にはオーガっぽいのが多いと思ってたんだけど、どう?」
 ミニャが釣竿を持っていない方の手で、指を折る。
「アレフ、アレン、ソフィア、アベル、レック。この辺りがオーガっぽいなって」
「お。オレも、似たようなこと考えてた」
 ミニャの言ったことが琴線に触れたらしい。
 エックスがエークスとのやりとりを終え、口を挟む。
「アレフとアレン、アベルは絶対オーガだよな。ソフィアは……よく分かんねえ」
 言い淀んだのは、初めてソフィアと手合わせした時のことが記憶にあるからだろう。僕も、好戦的を超えて猟奇じみたソフィアに恐怖したエックスの絶叫を、今でもよく覚えている。
「あたしは、そこまでオーガばかりじゃないと思うな」
 ミーナが意見を述べると、エックスが続きを促した。
「じゃあ、どういう風に思ってるんだ?」
「アレフ、アレン、ソフィアがオーガなのは、あたしも賛成。でも、他の二人は別だと思う」
「だよね。ソフィアはオーガだよね」
 ミニャが言うのに、ミーナは頷いてみせた。
「三人とも、弱きを助け強きをくじくっていう考え方を、基本的にするところがあると思うから。オーガの追い求める強さって、そういうものでしょ」
「だな」
 エックスが同意する。
「ソフィアの激しすぎるところも、あの人なりの正義観なんじゃないかな」
「じゃあ、アベルとレックについてはどう考えてるんだい」
 ミニャが問う。
 ミーナは、丸い手を米神だろう位置に添えた。
「まだ少し、迷ってるところはあるんだけど。まず、レックはプクリポね」
「あー」
 エックスとミニャは、同時に声を上げた。
「なるほど。そういう考え方があったか」
「言われて見ればそうだわ。いや、それ以外ないわ」
「いつも笑顔で、サービス精神多めだもんな」
「結構ロマンティストだしね」
 二人は頷き合っている。
 ミーナは腕を組んで言う。
「難しいのは、アベルさん。どの種族でも行けそうなのよ」
 弱き者に手を差し伸べることに躊躇いがなく、自分より誰かのために戦うことを選ぶ。
 パーティーの和を重んじるかと思いきや、案外マイペース。
 いつもにこにこと笑っていて、場を和ませることにも長けている。
「でも、どれとも言い切れなくて」
「そうだなあ」
 他三人は考え込んだ。
 僕も何か意見を出したいところだけど、アストルティアに行ったことがないので何とも言えない。アベルの性格も、ちゃんと掴めてる自信がなかった。
 まず口を開いたのは、エークスだった。
「僕は、魔族っぽい気がする」
「魔族ぅ?」
 エックスが怪訝な顔になった。
「どの辺が?」
「魔物使いの感性を自然に持っていて、いかなる手段を用いてでも目的を叶えようとするところがある辺りかな」
「ああ。魔物との接し方については、僕もそう思うなあ」
 僕は頷いた。
 アベルは、どんな魔物ともフラットに接する。時に力をぶつけ合い、時に言葉なくとも労わり合うそのセンスは、ダーマ神殿を知る前の僕にはまず無理だろうと思わされるものだった。
 エークスは更に言う。
「彼の旅の話も聞いたよ。僕だったら、いくら両親のためと言っても、自分の結婚まで捧げることはできない。崇高な無私なのか、格別に優しいのか──そういう把握しきれないところが、魔族っぽいなと思うんだ」
「それならオレは、竜族だと思うな」
 エックスが言った。
「竜族も情が深いだろ。仲間や家族だと思った相手には、とことん尽くしてくれるじゃん」
「それもそうだなあ」
 僕は呟いた。
 アベルは、相手が人だろうと魔物だろうと、同じ仲間として等しく優しく接する。それぞれに合った接し方を守り、自分のやり方を強いることがない。
「その代わり、敵だと思った奴には容赦しない。そういうところが竜族っぽい」
「何だい。じゃあ竜族系の魔族ってことかい?」
 ミニャが言うと、ミーナがかぶりを振る。
「人間を含めた六種族が元だろう魔族はいても、竜族型の魔族だけは見たことがないよ」
「じゃあ、どっちかに絞らなくちゃいけないのか。あたしには決めきれないよ」
 ミニャが僕の方を向いた。
「なあ。アルスはどう思う?」
「うーん。どっちもそれっぽい」
 僕が正直に言うと、彼女は呆れたようだった。
「何だい。煮え切らないねえ」
「まあ、はっきりさせなくてもいいんじゃないか」
 エックスが言った。
「まだどの種族か話し合ってないメンバーもいるんだから、そっちを優先しようぜ」
「おっと。うっかりしてたわ」
 ミニャが目を瞬かせる。
 エークスが指を折る。
「えーと。まだ名前が出ていないのは……サンドラと、イレブンだね」
「サンドラはエルフかな」
 ミーナが一同を見回す。全員が頷いた。
「何よりも知性って感じだもんな」
「イレブンは?」
 一時、場が静まり返った。
 恐らく、皆イレブンのぽわっとした顔を思い出しているのだろう。かく言う僕もそうだった。だが、どれほど考えても、彼の上にはどの種族の顔も乗ってこなかった。
 やがて、ミーナが言った。
「人間?」
「そのままだな」
「だって、絞れなくない?」
「分かる」
「アベルとは逆で、どれとも言い切れないというか」
 強い者にも弱い者にも、等しく自然体で接して和ませる。
 愛する者達のために戦ったかと思えば、そのエゴとも優しさとも判別できない欲で世界を壊しもする。
 僕らは話し合って、やはり人間じゃないかという結論に達した。
 色々とふわっとしている彼の軸として確かなのは、世界のために諦めないという、勇敢さだけだと判断したからだった。
「かーっ! 思ってたより骨が折れた」
 ミニャが肩をぐりぐりと回す。
「勇者ばっかりだから、あっさり決まるかと思ってたのに」
「いろんな勇者がいるんだね」
 エークスは目を眇めて笑っている。
「個性豊かな勇者達がアストルティアにいたら、面白いだろうに。ここの皆が僕らの世界に来られないのが、本当に残念だよ」
「そうかあ? うちの世界は旅人だけでも十分個性的だろ」
 エックスが反論する。
「だいたいアストルティアは、勇者を特別扱いしすぎじゃねえか? そりゃあ勇者にしかできないことがあるのは確かだけど、それにしても、重いもんを背負わされたり、ひどい目にあわされたりしすぎなんだよ。いろんな力を持ってる人間やら冒険者やらいっぱいいるんだから、力を合わせるなり分担するなりすればいいじゃねえか」
「それができたら理想よねえ」
 ミーナは天を見上げている。
「けれど、大衆にそういう主体性や自覚、適切な世界観がないから、勇者みたいな少数の人達が苦労し続けてるんじゃないかしら。それならあたしは、アストルティアに複数の勇者がいられたらいいなって思う」
「派閥争い、起こらない?」
 僕が問うと、ミーナは溜め息を吐いた。
「起こるかも」
(大変なんだなあ)
 僕は少し同情した。僕の世界では、なろうと思えば誰でも何にでもなれた。だから、彼らみたいな世界の人達は大変だろうと思う。
「ところで」
 エークスが声を上げた。
「魚籠がそろそろ限界なんだけど、気付いてる?」
「あ」
 僕らは魚を入れていたバケツを覗き込んだ。どちらも満員だった。
 その後、魚を厨房に提供し、僕らは他の面子を交えてアストルティアの話に花を咲かせた。僕はその楽しさを胸に抱えたまま、寝床へ行った。
(アストルティアに行けたらいいのになあ)
 話に聞いた情景を思い浮かべるうち、うつらうつらとしてくる。僕はやがて、眠りについた。







***



 オレ、夢を見てるな。
 そう気付くのは早かった。
 何故なら、オレの置かれた全ての状況が、ありえないものだったからだ。
 オレは、青い円型の部屋にいた。足元の水鏡といい、周囲を取り囲む種族神の像といい。間違いなくここは、エテーネの島の光の神殿──かつてオレの旅が始まった場所だった。
 しかも、隣には魂だけのミーナがいる。こんな状況、ありえるはずがなかった。
 ちょうどその時、ミーナがこちらを向いて言った。
「なんだか変ね」
「ああ」
 すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
 ──あなた達は、まだ死ぬ運命ではありません。
 以前、オレの旅立ちの時に聞こえたのと同じ、麗しい男の声だ。
 でも、言う内容は大分端折っているような気がする。前はもっといろいろ言っていたような。
 ──奇しくも、あなたと同じ日に命を落とした異種族の若者が五人、
 声が、不自然に途切れた。
(五人の中から、自分の転生する相手を選べって話だったよな)
 エックスが続きを待っていると、声は呟いた。
 ──……いなくなりました。
「え?」
 エックスが目を丸くしていると、ミーナが言った。
「どういうことですか?」
 ──死にそうだった若者五人が、息を吹き返したのです。
 亡くなるはずだった若者達が、いなくなったということか。
 いい夢かもしれない。
「良かったですね」
 ──ええ。しかし、あなた達は生き返しを受け、冥王ネルゲルに奪われた身体を取り戻す必要があります。
 そうかな。
 別に蘇生しなくてもいいんじゃないかな。
 夢だと分かっているので、オレは黙って待った。
 声は、続けて言った。
 ──そこで、あなた達の身体を取り戻す手伝いをしてくれる五人の戦士を連れてきました。
「オレ達の身体を取り戻す手伝いをしてくれる──」
「──五人の戦士?」
 オレとミーナの声が、一人称以外ぴったり重なった。
 すると、五種族神の像の前に、それぞれ一つずつ、人影が現れた。
 五つの人影を見たオレは、強烈な既視感を覚えた。
 ──紹介します。猛吹雪に見舞われたロンダの氷穴から、毛皮一枚で生還したオーガ、アレン。
「シルバーデビルやブリザードがいなかったのが不幸中の幸いだったな」
 ガズバラン神像の前に立つオーガは、そう言いながら腕組みをする。
 夜の雪に似た、灰色がかった銀の短髪。アイスブルーの瞳。
 どこからどう見ても、オーガになったローレシアのアレンだ。
 ──幼馴染との手合わせ中に、もう一人の幼馴染から声を掛けられるも、ガン無視したために生き延びたウェディ、ソロ。
「剣振ってるヤツに声を掛ける時くらい、気ィ遣いやがれこのデコ助って言ったら、引っ叩かれたわ」
 続けてマリーヌ神像の正面にいる、頬に手形を付けたウェディが言う。
 肩あたりまで伸びた緑の髪にややエッジの効いた秀麗な顔立ち。何よりこの、相手を選ばない口汚さは、不良勇者のソロしかいない。
 ──魔瘴対策に武力解決を思いついたエルフ、ノイン。
「呪文を用いての対症療法的魔瘴解決は、呪文使役者への負担が大きすぎるため、根源を断ちに行くことにしました」
 エルドナ神像に背を向け、こちらに一礼するエルフの少女。
 ピンクボブに愛らしい顔立ち、小柄な体格。ほぼ普段と変わらないノインである。
 ──落盤事故を回避したアルス。
「二度目の生き埋めの気配を察知したので」
 ワギ神像と似た頭身になったアルスが言う。
 つぶらでおっとりとした瞳が、姿が変わっても変わらない雰囲気を伝えてくる。
 ──穢れの谷の大蛇に一騎打ちを挑み、仕留めるまではいかずとも尻尾を落とすことに成功したレック。
「尻尾はミンチにして食ったぜ!」
 ピナヘト神像周辺を飛び跳ねていた、青いファーラットみたいなものが言った。濃紺の髪は依然として天へ跳ねている。転生しても変わらない髪型は、レックのこだわりだったようだ。
 五人の転生者達が、オレ達のいる水鏡へ集まってくる。
 オレはぽかんとすることしかできない。隣のミーナを見れば、米神を揉んでいた。
 一段と筋骨豊かになったアレンが、オレ達を見下ろした。
「キーエンブレムは、各地で取ってある」
 言うなり、五人はそれぞれ二つずつキーエンブレムを示した。
 嘘だろ。どういう時間の使い方をしたらそうなるんだよ。
 オレに質問の隙を与えず、レックが拳を突き上げた。
「早速、冥王の心臓に乗り込むぞ!」
「そんなすぐには行けないわよ」
 ミーナが必要な手段を説明しようとする。
 それを、今すぐ行けますと言って遮ったのは、ノインだった。
「何故なら、私がこれを持っているからです」
 ノインは懐から、黄金のホイッスルを取り出した。
「私には、天の箱舟の操縦資格があります。天の箱舟は最強の移動手段であり、武器であり、鎧でもあります。これに手を加えて、冥王ネルゲルの発生の由来から、存在ごと消滅させます」
「で、できるの?」
 ミーナが問うと、少女は頷いた。
「この剣を箱舟に宿らせれば、可能です」
 ノインは、背中に負っていた剣を手にした。
 それは、異様に禍々しい片手剣だった。骨に似た刀身に、黒みを帯びたオーラを纏っているように見える。
「何だそれ」
「時を破壊したことのある剣です」
 普通に怖い。
 身構えたオレ達に、ノインは宥めるような口調になる。
「大丈夫です。本来なら一回しか使えない品なのですが、私の力を込めれば、もう少し長く使えるはずですから」
「何が大丈夫なんだよ」
 彼女は答えず、ホイッスルを吹いた。
 種族神の間の外には、一面の夜空が広がっている。その夜の中を、一筋の光が切り裂きながら走ってくる。
 うわ。箱舟だ。
 本当に来た。
 箱舟は、光の神殿に寄り添うようにして停まった。
 ノインはいち早く黄金の車体へ歩み寄り、剣を翳す。たちまち、剣の輪郭が光となって解け、列車の輪郭を覆う。
 眩い閃光が迸る。
 オレは目を覆った。光が収まった頃合いを見計らって、そっと腕を退かして様子を窺う。
 そこにはもう、黄金の列車はなかった。
 代わりに、黒塗りの高級感のある列車があった。
「これで、冥王の居城に突っ込みます」
「激突! 魔王城って感じだな」
 ソロが愉快そうに言う。
 アルスは、カラーチェンジした箱舟に興味津々のようで、箱舟の表面をぺたぺたと触っている。
「どうなってるの? 箱舟は、本質的に変わっちゃったのかな」
「いいえ。激突した存在を破壊するモードを搭載しただけです。これで敵の居城を破壊すれば、冥王によって失われたものが、全て元に戻ります」
 ノインはここで、こちらを向いた。
「あなた達のエテーネの村とて、例外ではありません」
 そう言われると、オレ達は何も言えない。実現の確率がどれほど低かったとしても、失われた故郷が戻るかもしれないのだ。しかも、この提案をするのは、天使──現在はエルフだが──なのだ。揺るがないわけがない。
「異次元にまで存在の消滅をもたらすモードを搭載した箱舟は、最早これまでの箱舟とは似て非なるもの。いや、移動手段という枠組みを超越し、全く新しい存在に生まれ変わったと言っても過言ではありません」
 ノインは胸を張る。
「新しく名をつけるなら、さしづめ、異次元消滅トレインといったところでしょうか」
「ネーミングセンスは死んでるな」
 オレ達は、黒塗りの箱舟に乗り込んだ。
 操縦席へ着いた元天使は、愛らしい瞳をサファイアのように煌かせて言った。
「覚悟はいいですか? 私はできています」



 その日。
 アストルティアの空で、大爆発が観測された。
 ツスクルの学びの庭では「あれは太古の記録に残る神の火だ」という噂が立ち、ドルワーム王立研究所は「超新星爆発かもしれない」と沸き立ち、チョッピ平野のあらくれプクリポ達は「クソでけぇネズミ花火だ」とはしゃいだ。
 後の人々は、この夜を「月砕きの夜」と呼んだ。
 だが、不思議なことに、何が爆発をしたのかを突き止めようとする者はいなかった。勿論、この瞬間に世界の存在がいくつか変質したことに気付く者も、なかった。







 五人の転生者は、アストルティアに満遍なく和平をもたらした。
 それは、普通なら行くことの叶わない、隔絶された土地も例外ではなかった。レンダーシアを「和睦」した後、アレンとソロがナドラガンドへ、アルスとレックが魔界へ発った。そして、全員と「和睦」したと言って帰ってきた。
 ナドラガンドから戻ってきたアレンは、まずこう言った。
「世界は、そこそこの数の味方と武力で制圧できる」
 それを聞いて、先に魔界から帰ってきていたアルスは言った。
「僕らの正当性が分かりやすいシナリオもあると、なお良いね」
 元勇者達の台詞じゃないよね。
 聞いていたミーナは、そう呟いた。
「絶対なぐってるって」
 だけど、死者は出ていないという。
 それはそうだ。世界に多大な損失をもたらす意思を曲げない者がいれば、ノインの箱舟の餌食になるのだから。
 そして、アストルティアに初めての争いなき時代が訪れた。
 もっとも、五人がしたことは圧倒的力を用いた制圧以外の何物でもない。このような苛烈な支配体制は、強力なトップがあってこそ成り立つものだ。だから、トップが崩れてしまえば往々にして長続きしないのが常のはずだった。
 だが、彼らについては、そうはならなかった。
 何故なら、五人は実質的に不死だったからだ。
 ある時、アルスが老いて死んだ。
 オレは皺くちゃになったアルスがベッドで永眠する瞬間を、確かに見た。
 しかし、彼が息を引き取った瞬間、オレの横で声がしたのだ。
「やあ。また来たよ」
 見ればそこに、若いアルスがいる。しかもこのアルスは、先程亡くなったアルスの記憶を全て持っているのだ。
 こんな感じだから、五人を抑止力としてもたらされた平和な時は、終わらなかった。
 人々はこの永遠の時代を、アストルティア五帝時代と呼んだ。五人は王位につくことこそしなかったのだが、一人あたりの力が実質国に等しかったので、そのような名称になったのだった。
 こうしてオレ達は、遂に、ずっと平和なアストルティアを手に入れたのだった。











 目が覚めて、オレはしばらく茫然としていた。
 割り振られた部屋を出て、宿の外へ行く。すると、外のベンチで同じようにぼんやりしているミーナを見かけた。
 オレが隣に座ると、彼女は虚ろな目でこちらを見た。
 彼女は言った。
「あの人達、いつかアストルティアに来させてもいいのかな」
 オレは答えた。
「分かんねえ」
 ちょうど、森の向こうから太陽が顔を出した。
 オレ達はベンチに並び、黙って異界の日の出を眺めた。



 後で、ナインに夢の内容を話してみた。
 すると、彼はこう言った。
「大変興味深い内容ですが、それを現実にするのはかなり難しいですね。何故ならば、まずあなた方が転生する瞬間に介入することが不可能ですからです。止まり木の世界に設けられた誓約──渡り鳥の決まりで言うところの、聖戦への不干渉の原則を破ることになってしまいますので」
「そっか」
「そうよね」
 オレ達は顔を見合わせた。お互いに、安堵とも落胆とも言えない、微妙な顔をしていた。







20240430