やたら語るレイドック王子
1.お題「ハッスルダンス」
ある森の一角で野営をする夜、薪を囲む仲間達のところへ、逆さ青髪が帰って来る。青髪、皆の輪に加わるなり叫ぶ。
「みんな、ハッスルダンスを知ってるか!?」
「何言ってるの? 全員踊れるじゃない」
「いきなりどうなさったんですか」
ミレーユが答え、チャモロが問う。他の仲間達は彼に心配の眼差しを向ける。しかし、青髪はそれを聞いているのかいないのか、小さな本を取り出して次のように叫ぶ。
「説明しよう! ハッスルダンスとは……」
・ハッスルダンス
効果:ハッスルしてダンスを踊り、仲間を元気にさせる。
有効範囲:仲間全員(馬車内の仲間含む)
仕様時期:戦闘中
消費MP:0
スーパースター★×6で習得
(エニ○クス『ドラゴンクエストⅥ幻の大地 公式ガイドブック下巻●知識編』より引用、一部抜粋)
「フッ、そんなの今更だぜ」
「馬鹿野郎!」
主人公、いきなりテリーを殴る。テリー、五メートルほど吹っ飛ばされるも、頬を押さえて起き上がり抗議する。
「何しやがる!」
「こっちの台詞だ! 今更だとか抜かしてる、お前のハッスルダンスが一番問題なんだ!」
――何だと?
全員の視線が青髪に集中する。彼は好機とばかりに本を放り投げて声を張り上げる。
「そうだ! 俺は、このパーティーに今とてもやばい問題があると考えている! その問題が、ハッスルダンスだ!」
「えー? でも誰が踊っても回復してるじゃん」
バーバラが唇を尖らせる。しかし青髪は首を横に振る。
「そうじゃない! 最近個人によって回復の度合いが違うんだ」
「違わないと思うけど」
「たとえば」
青髪は金髪の美女と小柄な魔法少女を順に指さす。
「ミレーユのハッスルダンスは優雅でとてもいい。バーバラのも元気が出る。すごく元気が出る。まるでセーラやターニアが『頑張って、お兄ちゃん!』と言ってくれているかのように」
「頭にホイミしましょうか?」
そう言ってアモスが立ち上がり、ツンツンに立てられた髪に手を翳そうとする。しかし、青髪は後ずさり、逞しい彼に向って叫ぶ。
「だがアモス! お前のは違う!」
「ええ、何がですか!?」
「お前最近ハッスルダンスの度に変な衣装着るだろ!」
「変な衣装なんかじゃありません!」
アモスは握り拳を作って、
「あの衣装は昔、モンスターに尻を噛まれて元気がない時に、神様が夢の中で見せて下さった、最高に元気が出る踊りの衣装なんです!」
一同は彼の衣装を思い出す。そう言えばビキニを着て、腰と頭に妙なもさもさしたものをつけて孔雀みたいにしてたなあ、と。
「知るかそんなの! 露出が高いのはいいけどお前男だから全っ然嬉しくねえし、やたらテンション高くて逆に引くんだよ」
「ええ!? 私の渾身のサンバに何てことを!」
――ハッスルダンスじゃなかったのか!?
全員、衝撃の事実に愕然とする。
次に、青髪はゲントの神童を見る。
「チャモロ、お前もだ。お前は扇を使って踊るし盛り上げようって気持ちは伝わってくるけど、何か違う!」
その言葉に一同、そう言われてみればとチャモロのハッスルダンスを思い出す。彼の動きは一応ハッスルしているのだが、所作がピオリム三倍のキラーマシンのようで、しかも何故か扇をひらひらとするのではなくくねくねと平面的に動かすのである。
チャモロは平然と返す。
「あれはいずこかの次元に存在する幻の世界で、『ノー』と呼ばれる神へ捧げる幻の踊りの動きを取り入れたのです」
「何だそれ! チャモロお前すげえな!」
「すげえけどあれはあまり盛り上がらない! それからハッサン、お前のも!」
チャモロに賛辞を送っていたお人好しの武闘家は、俺も!? と自身を指さす。青髪は頷いて見せる。
「そうだ。お前のはとにかく、うるさい! 妙な掛け声ばっかり入れやがって」
「いいじゃねえか、声出すと元気出るぜ!」
「『そーれ、ハッスルハッスル!』だけなら分かる。けどお前はその後に何て言う?」
「あー、たとえば……『テリーの! ちょっといいとこ見てみたーい! そーれ、イッキイッキイッキ』」
「意味分かんねえんだよ! で、テリー」
「な、なんだよ」
テリーはどんな罵詈雑言を浴びせられるのかと、微妙に緊張した面持ちで身構える。
「お前のは全体的に問題ないけど、とにかく癇に障る。踊るな」
しかし、かけられたのはそんな冷たい言葉だった。テリーは思わず立ち上がる。
「理不尽だ!!」
「そこで、俺はみんなに踊ってもらいたい理想のモデルを見つけて来た!」
聞け! と喚くテリーを無視して、青髪は袋からまがまがしい鏡を取り出す。ミレーユが不思議そうにそれを眺める。
「それはなあに?」
「一週間前にカルベローナで作ってもらった、幻惑のカガミだ」
「何それ呪われそう」
「頑張って一日で殺した、悪魔のカガミ百体分のモシャスエネルギーが詰まってるだけだから大丈夫」
「全く大丈夫そうではありませんね」
チャモロが呪い払いの支度をしようと杖を取った瞬間、幻惑のカガミからぼわんと白い煙が立ち上った。
呆気に取られる一同の前に、白い煙の中から人影が現れる。
まず目に飛び込むのは、ファーラット二匹分はある乳房である。驚異的なバストサイズの、赤毛をツインテールに結った勝気そうな美少女だ。美少女は踊っている。
「そーれ、ハッスルハッスル!」
「異世界で会った港町のアイドル、ゼシカちゃんの踊りをコピーしてきた。みんなこう踊れるようになるように!」
「あまりバーバラの踊るハッスルダンスと変わらないと思うんだけど」
ミレーユが小首を傾げる。その隣でバーバラが手を挙げて訊ねる。
「はーい! 特に、どこを直せばいいの?」
「良い質問だ。ゼシカちゃんの元気のポイントは……これだ!」
青髪は剣で、踊り続けるゼシカのある一点を指す。
「このダイナマイトなおっぱい! この動きがすごいだろ!? もうゆっさゆっさっていうかたゆんたゆんっていうかぼいんぼいんって揺れる感じがさ、テンションが上がるどころか男としてテンションバーンにならざるを得ないよな特にこ――」
その瞬間、魔法都市カルベローナの民はざわめいた。
「今、世界が揺れた……」
「違う、マダンテじゃ。バーバラ様がマダンテをお使いになったに違いない」
「ああバーバラ様……それほどの過酷な戦いを強いられているのですね」
「皆、祈りましょう。バーバラ様に神のご加護を」
彼らは大魔女の無事を祈る。その成果あってか、幻惑のカガミはものの見事に、塵一つ残さずこの世から消え去ったと言う。
2.お題「輝く息」
ある平原の一角で野営をする夜、薪を囲む仲間達のところへ逆さ青髪が帰って来る。青髪、皆の輪に加わるなり叫ぶ。
「みんな、輝く息を知ってるか!?」
「何言ってんだよ。みんな使えるんだから知ってるに決まってるだろ」
「またいきなりどうなさったんですか」
ハッサンが答え、チャモロが問う。他の仲間達は彼に心配の眼差しを向ける。しかし、青髪はそれを聞いているのかいないのか、小さな本を取り出して次のように叫ぶ。
「説明しよう! 輝く息とは……」
・かがやくいき
効果:超低温で凍った大気が輝くほどの猛吹雪で、敵の身体を破壊する恐ろしい攻撃。
有効範囲:敵全体
仕様時期:戦闘中
消費MP:0
ドラゴン★×8で習得
(エニ○クス『ドラゴンクエストⅥ幻の大地 公式ガイドブック下巻●知識編』より引用、一部抜粋)
「フッ、そんなの今更だぜ」
「馬鹿野郎!」
主人公、いきなりテリーを殴る。テリー、七メートルほど吹っ飛ばされるも、頬を押さえて起き上がり抗議する。
「何しやがる!」
「こっちの台詞だ! 今更だとか抜かしてる、お前の輝く息が一番問題なんだ!」
――何だと?
全員の視線が青髪に集中する。彼は好機とばかりに本を放り投げて声を張り上げる。
「そうだ! 俺は、このパーティーに今とてもやばい問題があると考えている! その問題が、輝く息だ!」
「えー? でも誰が吐いてもダメージ一緒じゃん」
バーバラが唇を尖らせる。しかし青髪は首を横に振る。
「そうじゃない! 最近個人によって俺がダメージを受けるんだ」
「気のせいでしょ」
「たとえば」
青髪は金髪の美女を指さす。
「ミレーユの輝く息は綺麗でとてもいい。ミレーユの美しさもあって、本当に輝いてる。うっかり巻き添え喰らっても痛くないくらいに輝いてる」
「お前大丈夫か?」
ハッサンは思わず呟く。それを聞きつけたか否か、青髪はいきなり振り返り彼に向って叫ぶ。
「だがハッサン! お前のはダメだ!」
「ええ、なんで!?」
「お前最近昼飯食った後歯ぁ磨かないんだもん!」
一瞬、一同は何の関係があるのか考える。だがあることに気付いて、ああと納得する。
「食ったものの匂いがすんだよ! 酒! 焼肉! ニンニク!」
「いいだろ、腹減るだろ!」
「減らねーよくせえわ! ちゃんと磨け!」
次に、青髪はカルベローナの子を見る。
「バーバラ、お前もだ」
「えっ私も口臭い!?」
「そうじゃない、振り付けだ!」
その言葉に一同、そう言われてみればとバーバラの輝く息を思い出す。彼女は輝く息を吐く時に、感情の籠った身振り手振りをつけながら歌うのである。ありのーままのーと。
バーバラは唇を尖らせる。
「いーじゃん、みんな好きでしょ? 『ベラと雪の女王』」
「確かに面白かったけどいい加減何度も聞いてると飽きるんだよ! それにあれとっくに公演期間すぎただろうが!」
「何それー!? 名作は不滅なのよー!?」
「女王様ごっこは遊び人の時だけにしろ!」
「まあまあ、いいじゃないですか」
「何もしないで一緒に歌ってたお前が言うな!」
とりなしたアモスにリーダーは容赦なく叱りつける。しょんぼりとした戦士を見かねてチャモロが慰める。
「歌、お上手でしたよ」
「ありがとうございます……」
「……俺、チャモロのもちょっと気になることがあるんだけど」
「え、またですか?」
チャモロは怪訝そうな顔をする。青髪は神妙な面持ちで頷く。
「お前さ、砂漠で戦ってる時に何で息吐く前に眼鏡外すの?」
「眼鏡って曇るんですよね。ありません? そういうこと」
「俺視力超いいから分からねえ。で、テリー」
「な、なんだよ」
テリーは前回のこともあり、またどんな罵詈雑言や冷たい台詞を浴びせられるのかと緊張した面持ちで身構える。リーダーは眉根を寄せる。
「お前のは逆に至って良い匂いすぎて気持ち悪い。何あれミント? ちょっと匂い強い」
「小姑か!!」
テリーは思わず立ち上がって叫ぶ。
「細けえ文句ばっかつけやがって! そんなに言うならお前がやって見せろよ!」
「そうだそうだー!」
バーバラが拳を振り上げテリーに同調する。青髪は渋い顔をする。
「え? 俺はちょっと……」
「そう言えば貴方が輝く息を使ってるのって見たことないわね」
ミレーユがふと思いついたように言う。一同はざっくばらんにこれまでの戦闘を思い返してみる。確かに、リーダーが輝く息を吐いた記憶がない。
すると青髪は言った。
「俺が輝く息を使う時は、スカート穿いた可愛い女の子の前でって決めてるんだ。ほら、凍るだろあれ。だから――」
その夜、魔法都市カルベローナに次期長老候補が帰って来た。彼女は帰ってくるなり教会へ向かった。
「おや、バーバラ様。どうなさったので」
「ねえ、ついかっとなった時ってどうしたら落ち着けるのかな?」
「そうですねえ。深呼吸をしてみるとか……何かお仲間とあったのですか?」
「ううん。何もしてないけど存在自体が罪だと思う仲間がいるの」
「は、はあ……」
「何であんなのが勇者なんだろう」
神父は何も言わない。ただ黙って十字を切り、彼の大魔女と世界の無事を祈った。
20140720
第3回DQ深夜の真剣物書き60分一本勝負参加。お題「ハッスルダンス」選択。
20150127
第31回DQ深夜の真剣物書き60分一本勝負参加。お題「凍える吹雪・輝く息」選択。