かたちのある夢




 よっ、俺の名前はランド! ライフコッドっていう山奥の村に住んでる好青年だぜ! 覚えといてくれよな!



 え? 何でこんなところに寝てるのかって? まあここ、村の人じゃねえ人から見れば、急な崖に見えるらしいからなあ。そんなに危なくねえけどな。昼寝にもってこいだぜ?



 それは置いといて、だ。何でこんな真っ昼間から寝てるのかって、そりゃああれさ、俺ってば村一番の働きモンだから、何もしなくていいの。たまには休んだっていいだろ?
 へ? やだなあ、俺が働きモンに見えない?



 ……そうなんだよなあ。俺もそう思う。



 まーまー聞いてくれよ。俺、毎日ここでのーんびり昼寝してるんだ。だからみんなに怒られんだよ。ガキには「ランドのバカ」なんて、家の壁に落書きされちゃうしさあ。「仕事しねえ奴はおまんま食うな」ってのが、うちの村の基本だから仕方ねえよな、そりゃ。別に、俺の村だけじゃねーことだと思うし。
 でも俺、働く気が起きねえんだ。
 働くのが嫌いなわけじゃあねえ。働いた方がいいのは分かってる。でも、なんていうかなあ……いつも、「さっ、今日こそは働くか!」って思うと、身体がここに来てるんだ。



 で、俺の頭が言うんだ。「夢の中でくらい、休ませてくれ」って。
 そうすると、何だか知らねえけど、身体ももう十分働き疲れた、って感じに重くなるんだよなあ。



 おかしいだろ? ん? 働かないロクデナシの言いわけに聞こえる? そうだろうな。俺もそう思ったよ。でもさ、これだけじゃねえんだよ。



 俺、好きな子がいるんだ。ターニアっていう、可愛いくて気立てもいい働き者で、最高な女の子なんだけど。
 アイツを見ると、俺いつも妙に焦るんだよな。「早く俺がもらってやんなくちゃ。アイツをあの野郎から守ってやんなくちゃ」って、急かされるんだ。



 そんなに急ぐことねーと思わねえ? アンタも見りゃ分かると思うけどさ、俺の村年寄ばっかりで、若い男なんてあんまいねえのに。誰と競ってるんだろ?



 で、更に不思議なのがその兄貴を見た時なんだよ。
 兄貴も妹と同じで働き者さ。俺はターニアの婿になりてえから、兄貴のことも俺の本当の兄貴みたいな目で見てる。良い人だよ、本当に。こんなくそ田舎から出て、レイドックの城で兵士になって、王様のトクメイなんて受けてるらしいんだ。うちの村一番の出世株だぜ? すげーだろ?



 でも、俺はあの人のことが……たまに、すごく憎く感じられるんだ。
 そりゃあ、ターニアが兄貴がいなくて寂しがってるのは知ってるし、もうちょっと帰ってやればいいのに、って思うことあるよ。あんな出来た兄貴がいちゃあ、ターニアを嫁にもらいづれーなとも思うよ。だけど、憎く思うほどじゃねえし、そんな嫌いになる原因だってねえんだ。何も。小っちぇー頃から一緒に育ってきてるけど、何にもそんな恨みに思うことなんて、なかったんだ。



 「兄貴と仲良くしなくちゃ」って思う。でも、「こんな他人」って俺の頭は言うことがあるし、「お前なんかさっさと出ていけ」って思うことがある。俺は、兄貴のことは本当に兄貴みたいに思ってて、でも兄貴は本当は……。



 ……本当は、何だ? 俺は、何を言おうとした?



 おかしいんだよ。俺。おかしいんだ。俺、ろくろく働いてねえはずなのに、鍬握ったことねえくせに、鍬の振り方を知ってる。牛の乳なんて絞ったことねえのに、やってみればスイスイ絞れる。俺の記憶にないターニアや兄貴、村の景色が、会話が、ふっと湧いて来ることもある。



 俺、そんなことしてねえ。そんな経験したことねえんだ。ホントだよ? なあ? でも知ってるんだ。知ってるんだよ。俺じゃない誰かが、知ってるんだ。
 そう、俺の中に、俺じゃない誰かがいて、俺を動かしてるみてえな。いや、違うな。



 他の誰かが集まって、「俺」ができてるみたいなんだ。



 どういうことか分かるか? 俺、あんまり頭良くねえからよく分からねーんだ。
 なあ、教えてくれよ。



 俺の中にいる人達は、誰なんだ?















第十四回ワンライ参加。お題「ランド」選択。


20141012